タイの保健省は今年2月、「全ての誕生が大切……静かなカウントダウンが始まる時」という、不吉な響きを持つタイトルの共同記者会見を開いた。
当局によると、昨年は国内の死亡数が出生数を14万人も上回り、このままではタイの人口は今後約60年で半減する恐れがある。人口減少は国家経済、税収基盤、ひいては政府の安定性にも影響を及ぼしかねない。
タイの公的年金制度の一端を担う国民貯蓄基金(NSF)も7月、出生数の減少を「警告の兆し」と呼んだ。
労働力の先細りは社会保障を圧迫し、あらゆる人の老後に影響する。国民はこれまで以上に、子供ではなく自分自身に頼らざるを得なくなる。その一方で、生産年齢人口(15~64歳)が高齢者を支える負担は強化され、定年年齢の引き上げにつながる可能性もあるだろう。
タイの出生率の急激な低下は、生活費の高騰や女性の高学歴化が原因という、よくある少子化パターンを示すが、途上国にしては早めに人口危機が到来した。
タイの合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子供の数)は1.2で、イタリア、シンガポール、スペイン、韓国に近い。だがこれらの国の1人当たりGDPは、上位中所得国であるタイの4~11倍だ。
韓国を見ると、合計特殊出生率が、人口を維持するために必要な「人口置換水準」である2.1を初めて下回ったのは1984年。韓国経済が急成長していた時期のことだ。しかしタイでは長期的な経済停滞が続いている。
東南アジア全域でも出生率は低下しているが、タイはシンガポールと共に域内最低水準。ちなみにASEAN(東南アジア諸国連合)加盟11カ国のうち、合計特殊出生率が人口置換水準を下回った国は6カ国を数える。