――年月を経て、評価が上がった映画は?

評価よりも見る目が変わった。『インサイダー』を公開時に見たときは、若きオタクとしてアル・パチーノとラッセル・クロウのガチな演技合戦に興奮した。報道サスペンスは好物だしね。今は企業の不正に警鐘を鳴らした点を評価したい。あれはたばこ産業批判に始まり、企業に屈しやすいジャーナリズムへの戒めとして終わる。

『シックス・センス』もそう。20代の僕には先の読めないクールなサスペンスだった。子供を持って初めて、どんなに頑張っても確実に子供を守ることはできないし、気持ちも完全には分かってやれないという親の不安を描いていると気付いた。

――『ハムナプトラ』にまるまる1章を割いたのはなぜ? 大ヒットしたが平凡な作品だ。

見ればなかなか楽しいよ。99年のハリウッドが遠く感じられる理由を説明するのにちょうどいいから、『アイズ・ワイド・シャット』と一緒に取り上げた。

あの頃はスターを出せばヒットが保証される時代で、だから彼らは破格のギャラをもらい、権力を握った。今、客を呼べるのはシリーズ物だ。新生『スター・ウォーズ』はいいキャストをそろえているが、スターがいなくても、次の『エピソード9』は公開直後に2億5000万ドルをたたき出すだろう。

99年はメル・ギブソンやハリソン・フォードやトム・クルーズの天下だった。特にトムが『アイズ・ワイド・シャット』に出たいと言えば、ハリウッドは他の企画を棚上げにして2年待った。それほどのドル箱だった。ジュリア・ロバーツ級になると、1億ドルのヒットをひと夏に2本飛ばした。

大手はギャラの高騰はもちろん、スターの権力が大きくなり過ぎるのを危惧し、安く使える若手を探した。そしてメジャーと独立系に交互に出演していたブレンダン・フレーザーに目を付け、超ビッグな夏休み映画『ハムナプトラ』を任せた。

――20年で最も劇的な変化は?

中間が消えたこと。最近の製作費は、150万ドルか1億5000万ドルの両極端。『スリー・キングス』や『ハイスクール白書』みたいな2000万~7000万ドルの映画を支えるシステムは存在しないと言っていい。

鑑賞方法の選択肢が増えて赤字をDVDで補塡できなくなり、大手スタジオは誰もが知っているシリーズ物が頼りになった。とりわけ巨大な中国市場でヒットする映画が。

文化的な対話を促す映画が消えてしまったみたいで、数年前は暗い気持ちになったよ。でも17年にはジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』やグレタ・ガーウィグの『レディ・バード』、昨年はポール・シュレーダーの『魂のゆくえ』が公開されたし、作家性の強い監督にもまだ居場所はあるようだ。

シリーズ超大作だって捨てたもんじゃない。『ブラックパンサー』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は心から満足できる。それでも斬新なアイデアに何千万ドルもの予算が付いた時代が懐かしい。

――99年の作品で、今だったら製作されそうにないものは?

代表作はどれも厳しいだろう。フィンチャーは超低予算でアングラ風にも作れるし、スター主演の大作にもできると言って『ファイト・クラブ』を20世紀フォックスに売り込み、後者で撮った。今なら超低予算版だな。

映画ではなく別の形になるかも。『ボーイズ・ドント・クライ』はドラマ化してもいい。『ハイスクール白書』の原作は緻密で登場人物の多い小説だから、HBOのミニシリーズ向きだろう。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』はポッドキャストで、謎の音源をめぐる実験的なホラードラマにできるんじゃないか。

観客がこういう作品を求めなくなったわけじゃない。ただ、映画館に行くとは限らない。

99年の最優秀作品は......