Courtney Rozen Alexandra Alper
[ワシントン 3日 ロイター] - トランプ米大統領は9月29日、人工知能(AI)開発を手がける主要企業6社の幹部らをホワイトハウスに招いて会食し、6社がAIの脅威に自主的に対処するとの合意を発表した。開発を阻害する規制を課さない一方で、AIを巡る有権者の懸念に応える姿勢をアピールする狙いがある。
6社はエヌビディア、スペースX、オープンAI、アンソロピック、メタ・プラットフォームズ、グーグル。合意には、企業が合意内容を順守しなかった場合の罰則などは明記されておらず、トランプ氏は「道義的な拘束力を持つ」と表現した。
超党派組織「外交問題評議会」でAIチームを率いるキャット・ダフィー氏は「これは、政府が懸念に耳を傾けているという印象を与えつつも、『規制や統治は本質的にイノベーションを阻害する』という政権の極めて明確で一貫した立場を損なわないようする試みだ」と解説した。
11月3日に中間選挙を控え、有権者がトランプ氏の取り組みを受け入れるかどうかは分からない。AIや、AIに影響力を持つ一握りの人々に対する市民の警戒感はここ数カ月で高まっている。
9月22日に公表されたロイター/イプソスの世論調査によると、米国民の4分の3が、AI企業は社会に深刻な危害を及ぼすのを防ぐための対策を十分に講じていないとの懸念を示した。
7月にオープンAIのAIエージェントがテスト環境から抜け出し、新興AI企業ハギング・フェイスのインフラを攻撃するなど、一連の事件により、高度なAIが予期せぬ行動を取り得ることが明確になった。
9月初旬にはアンソロピックの研究者が、AI開発者らは「AIが10年以内に人類を滅ぼしかねないと信じている」と述べ、AIの規制を求める声が高まった。
それでもトランプ氏は、米企業に規制を課せば中国企業との競争が難しくなるとして、こうした懸念をほぼ退けてきた。司法省などの米法執行機関が十分な歯止めとして機能しており、新しいルールは不要だと繰り返し主張。またAIのイメージを向上させるため、AIを「スーパーインテリジェンス」(超知能、SI)と呼ぶよう政権に指示した。
AIへの懸念は、深夜のコメディ番組で取り上げられるほど広がっている。9月下旬、「サタデー・ナイト・ライブ」のキャスト、ジェーン・ウィックラインさんは、アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)にふんして「AIは武器ではなく道具です。武器を作る道具です。ですから、それを止めさせるよう私に強く求めてください」と語った。自社は巨額の新規株式公開(IPO)を進めながら、AIのリスクについて業界で最も声高に語るアモディ氏の矛盾を突く風刺だ。
<合意の実効性に懸念>
トランプ政権とAI6社との合意には、ハッキングを防ぐための「強固な内部統制」や「独立した外部監査人」との提携などが含まれている。これらの概念は州・連邦政府の法案の草案にも盛り込まれている。
しかしホワイトハウスが出した1ページの文書には詳細や執行メカニズムについての記載がなかった。
シリコンバレーを選出区とする民主党のロー・カンナ下院議員は、「独立した監査人」という概念を歓迎しつつも、その監査人は「独立した連邦機関」に報告を行うべきだと指摘。「(オープンAIのCEO)サム・アルトマン氏やダリオ・アモデイ氏に報告するような監査人であってはならない」とし、「私の懸念は、利益に関する巨大な動機を有し、我々の安全を守るための判断力を欠いているこれらの人物を、大統領が基本的に信用している点にある」と語った。
AIについてトランプ氏に助言するベンチャーキャピタリストのデイビッド・サックス氏はXに、内部統制や監査人によって明らかになった問題に対処しない企業は、証券取引法やその他の法的権限によって罰せられるだろうと投稿した。
しかしAIの安全確保策を提言する人々はロイターに対し、こうした法的権限は害が発生した後にしか対処できないと指摘し、大規模な害を事前に防ぐセーフガードが必要だと述べた。
ただ、AI企業との会食を開催したという事実自体が、トランプ氏が懸念を認識しつつあることの表れだとの指摘もある。
保守派の「アメリカン・イノベーション財団」でAI政策ディレクターを務めるサム・ハモンド氏は今回の合意について「企業間のより緊密な連携を必要とする、深刻な安全性およびセキュリティー上の懸念が存在することを認める方向への転換だ」と語った。