Ellen Zhang Marius Zaharia
[北京/香港 14日 ロイター] - 米国の高関税を回避するため、生産や調達を中国国外に移し始めてから1年。一部の企業は、中国の製造業のエコシステムを他国で再現するのは容易ではないことを痛感し、生産を中国へ戻し始めている。
昨年、トランプ米大統領の関税措置を受けて世界的にサプライチェーンを多様化する動きが広がる中、中国丹東市の金属鋳造会社・大王精鋳は、米国の主要顧客が一部の発注をインドに移したことで取引を失った。
しかし、副社長を務めるヘザー・クアンさんによると、この顧客はインドで問題に直面した後、新たな注文とともに戻ってきた。顧客である農業機械会社の社名は明らかにしなかった。
大王精鋳も一時は生産の一部を海外へ移すことを検討したが、その後断念したという。
クアンさんは「中国のサプライチェーンの優位性は依然として非常に大きく、国内の生産体制を他国で再現するのは難しい」と語った。
多くの企業は引き続き東南アジアの製造拠点に投資しているが、中国への依存に伴うリスクを関税率の低い別の国に分散する「チャイナプラスワン」戦略は、実行が想定以上に難しいことが明らかになっている。
生産委託がどの程度中国へ戻っているかを示す確たるデータはまだない。しかし、生産を他国へ移した一部のバイヤーは、海外工場では熟練労働力や供給業者ネットワーク、安定した電力供給の面で中国に及ばないため、中国のサプライヤーとの取引を維持、あるいは再開していると語った。
それでも、インド、インドネシア、ベトナムといった競合する製造拠点は、懸念材料が残る中でも電子機器や自動車などのメーカーから投資を呼び込んでいる。
こうした動きは、今月予定されるトランプ氏と中国の習近平国家主席の会談を前に進んでいる。企業は、一部の非機微品目の障壁を引き下げるために提案されている枠組みについて方向性が示されるか注視している。
事情に詳しい関係者2人によると、米小売大手ターゲットは、サプライチェーンの混乱や生産上の制約を理由に、一部の発注を中国のサプライヤーに戻した。関係者は、発注額や期間を明らかにしなかった。
事情に詳しい関係者によると、中国のネット通販大手SHEIN(シーイン)も、ベトナムでの一部事業を縮小している。
ターゲットとシーインはコメント要請に直ちに応じなかった。
中国東部・杭州で屋外用家具を輸出するジン・チャオフォンさんは、2024年にベトナムのホーチミン市に開設した作業場を閉鎖し、今年、生産を中国に戻したと語った。
ベトナムでは必要な設備を調達するのが難しく、ねじやカップホルダーの金型といった基本的な資材も中国から持ち込む必要があったという。
海外移転を正当化していた採算も変化したと指摘。「全てを計算に入れると総コストに大きな差はなく、移転する意味はなかった」と語った。
中国からの移転を進めた理由の一つは、米国の関税率の差を活用することだった。
英調査会社エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が7月にまとめた推計によると、中国製品に対する米国の実効関税率は約20%だったのに対し、ベトナムは6.1%、インドネシアは13.4%、タイは4.5%だった。しかし、米政府が関税の対象をより多くの国に拡大したことで、この優位性は縮小しており、一部の中国メーカーは海外投資を見直しているとEIUは指摘した。
<関税以外の要因>
一部の企業によると、特に中東危機によって製造拠点のエネルギー供給の信頼性が試されて以降、電力を安定的に確保できるかどうかが価格と同じほど重要な判断材料となっている。
ポーランドに拠点を置く包装会社DSTパックのスタニスワフ・クリクン最高経営責任者(CEO)は、原油価格の高騰でプラスチック原料のコストが4月に15%上昇するという厳しい時期を、6年来の中国の製造パートナーと協力して乗り切った。
クリクン氏は「何らかの危機が起きた場合、中国の生産工場が最も安定した選択肢になる」と語った。
DSTパックは生産の80%を深センの工場から調達し、残る20%は長年取引している米国と欧州の予備工場からそれぞれ10%ずつ調達しているという。
米国と欧州の工場では、単位当たりのコストが2─3倍になる。
クリクン氏は、取引先がベトナムで苦戦するのを目にし、東南アジアへの移転を断念した。「生産開始から輸出まで、多くの問題に直面していた。現地の仕組みは中国ほど円滑に機能していない」と述べた。
中国・青島を拠点にメーカーへ助言する弁護士、グアン・バオクイさんは、ベトナムとインドネシアでは電力供給が「不安定で継続性に欠ける」と指摘。原油価格の世界的な高騰に伴い、この問題が深刻化したと述べた。
全ての輸出業者に米国からの需要が戻っているわけではない。中国・寧波を拠点に贈答品や屋外スポーツ用品を扱う販売代理業者、サマー・フーさんは、勤務先では米国からの注文は増えていないと語った。
フーさんは「それほど楽観していない。競争があまりにも激しい」と述べた。
ベトナムは依然としてサプライチェーン多様化の最大の恩恵を受けている国の一つで、数十億ドル規模の外国投資を呼び込んでいる。
電気式ロッカーや自動販売機を販売するユー・ヤンシエンさんによると、同氏が勤める会社はリスク分散策として、総生産能力の約8分の1をベトナムに維持している。
ユーさんは、トランプ氏が「暴走」して関税が急上昇すれば、ベトナムで再び生産を拡大する可能性があると述べた。
輸出業者らは、トランプ氏と習氏の首脳会談で問題が解決するとは期待していない。
冒頭のクアンさんは、「トランプ氏に多くを期待することは、とうの昔に諦めた」と語る。
「生活を彼に依存することはできないし、全ての希望を託すこともできない。生き残るためには、自ら輸出市場を開拓しなければならない」