[香港 11日 ロイター] - 香港は、新規株式公開(IPO)市場の活況を背景に国際金融センターとしての地位を再び高めつつある。2019年の政治的・社会的混乱や、世界でも特に厳格だった新型コロナウイルス対策を受けて外国へ流出した専門人材が戻り始めている。
香港はスイスを抜いて世界最大の国際的な富裕層資産管理の拠点となり、2026年1─8月の資金調達総額(IPOを含む)は前年同期比76%増の約835億ドルに達した。
人材紹介会社やコンサルティング会社に取材したところでは、シンガポール、ロンドン、ドバイ、中国本土などへ移っていた金融業界の専門職が、資産運用や中国関連ビジネスの機会を求めて香港に戻るようになっている。
世界的なエグゼクティブサーチ企業H.I.E.C.の香港拠点パートナー、リー・ブランティンガム氏は「問い合わせや移住の動きは、23年の低迷期と比べて大きく回復しており、この18-24カ月で力強い勢いを見せている」と述べた。
その上で「金融サービス、とりわけ資産運用、プライベートバンク、ファミリーオフィス分野が依然として中心だ。一方で、人工知能(AI)の導入、コンプライアンス、リスク管理に関する需要が最も急速に伸びている」と説明した。
香港政府の投資推進機関「インベスト香港」によると、26年上半期には400社超が香港で新たに拠点を設置するか、事業を拡大した。これは前年同期比で9%増となる。
これらの企業は総額530億香港ドル(約68億米ドル)超の海外直接投資をもたらし、8600人以上の雇用創出が見込まれている。
こうした回復を受けて人材再流入とともに、中国本土企業や多国籍企業による一等地オフィス需要も高まり、長年低迷していた香港中心部(セントラル地区)の高級オフィス市場で賃料が上昇したほか、空室率は低下傾向にある。
香港政府は、世界的な資産運用拠点としての競争力強化を目指し、ファンド運営会社やファンドマネジャー向け税制優遇措置の対象拡大を盛り込んだ法案の成立も進めている。
<中国本土との結び付き>
中国政府が20年に香港に国家安全維持法(国安法)を導入した際、多くの専門職や外国人居住者の間では「どこまでが許容範囲で、どこからが越えてはならない一線なのか」が不明確だとして懸念が広がった。
この法律は、国家分裂、政権転覆、テロ行為、外国勢力との結託などを犯罪と定めており、これまでに多数の民主活動家や野党政治家、メディア関係者の起訴に適用されている。
ここ数年は社会の安定が保たれたことで、当時の懸念はある程度和らいでいるようだが、帰還する人々が目にする香港は、かつて離れた頃とは構造的に異なる都市で、企業の採用動向にそれが見て取れる。
具体的には、政府の人材誘致プログラムには数万人規模の応募が集まり、その多くを中国本土出身者が占める。これは香港と中国本土との結び付きが一段と強まり、中国資本にとって世界最大のオフショア拠点としての役割が拡大していることを物語る動きだ。
人材移転支援会社や不動産仲介会社によると、この1年で賃貸住宅市場環境は様変わりしており、海外からの赴任案件が急増している。新たな社宅契約に占める外国人幹部の割合も高まっているという。
ブランティンガム氏は「これは単なる景気循環による回復ではなく、構造的な進化だ。香港は、中国との結び付きがより強い、国際的なハブへと発展しつつある」と述べた。
一方で香港の住宅価格や生活コストは依然として高水準にあるものの、他のアジア地域と比べて資産形成がしやすいと考える人も少なくない。今年香港へ戻った教師のエミリー・ハンプソン・フォードさんは「生活費は高いが、その分より多く貯蓄できると思う。それがわれわれの目標だ。長期的には、今住んでいるタイよりも多くの資産を築けると考えている。香港にはビーチも山もあり、国際都市としての魅力も身近にそろっている」と、その生活環境の良さを評価した。