Anushree Mukherjee
[17日 ロイター] - 海運会社や船舶保有会社などの船主による大型原油タンカーの発注隻数が急増している。2026年に入ってからの発注隻数は25年通年の2倍を超え、金額は200億ドル超に達しており、少なくとも過去25年間で最大の発注ブームとなった。米国とイランの戦争で原油の貿易ルートが変わり、長距離輸送の需要が高まっていることが背景にある。
海運分析プラットフォーム、シグナル・グループによると、26年に入ってから発注されたVLCC(大型原油タンカー)は217隻で、前年通年の93隻から倍増した。アライド・シップブローキングの集計でも164隻と、前年通年の83隻を大幅に上回った。VLCCは1隻当たり約200万バレルの原油を運ぶことができる。
船主の間では、中東産原油への依存を減らす動きに伴って米国やブラジルをはじめとする大西洋地域からの原油が、これまでより長い距離を輸送されるとの見方が強まっている。脱化石燃料への移行が進むとしても、長距離の原油輸送需要は底堅く推移するとの期待も発注増の要因だ。
海運分析会社ベソン・ノーティカルのシニアアナリスト、レベッカ・ガラノプロス氏は「大西洋からアジアへの長距離輸送が増えると見込む船主の動きが、VLCCの発注意欲回復に大きく寄与している」と指摘した。
アジアと欧州の製油会社は、ホルムズ海峡が事実上封鎖されたことで失われた供給の代替確保を迫られている。同海峡は米国とイランの戦争前、世界の原油と液化天然ガス(LNG)の供給量の約5分の1が通過していた。
こうした中で米国の原油輸出は過去最高を記録し、大西洋地域の他の産油国も増産している。データ分析会社ボルテクサのアナリスト、イオアニス・パパディミトリウ氏によると、南米東岸ではブラジル、ガイアナ、アルゼンチンを中心に今後も輸出が拡大する見通しだ。
パパディミトリウ氏は「地域内の原油生産は30年までに日量約250万バレル増加する可能性があり、その多くが欧州とアジア市場に向かうため、長距離輸送が増える」とし、大型船を使った輸送が増えるとの観測も強まっていると付け加えた。
VLCCに加え、それより小型のスエズマックス型タンカーの需要も増加している。ペルシャ湾岸地域の原油をホルムズ海峡経由で運び出し、オマーン湾でさらに大型のタンカーに積み替える「シャトル輸送」の必要性が高まっているためだ。中東の産油国は、イランによる攻撃の危険を冒してホルムズ海峡を通航することに船主が消極的になったことから、自ら船舶を保有する必要があると判断している。
サウジアラビアの国土を東西に貫いて原油を紅海に送るパイプラインが損傷したことも、タンカーによる海上輸送需要を押し上げている。タンカー大手フロントラインのラース・バースタッド最高経営責任者(CEO)はノルウェーで開かれた会合で「サウジは少なくとも一時的に、この輸送にこれまで以上に大きく関与する必要がある」と述べた。
湾岸地域から原油を運び出して積み替える輸送では、船舶が長時間拘束され、待機時間も増えるため、必要な船腹量がさらに拡大する。会合を主催したパレート・セキュリティーズは、タンカー需要が極めて強く、現在では船齢10年の中古原油タンカーを購入する方が新造船を発注するより高い場合があると推計している。
また、今回の発注急増は、将来の原油輸送量の増加だけを見込んだものではない。長年にわたる市場低迷と船腹過剰を経て、老朽船の更新も差し迫った課題となっている。ベソン・ノーティカルの調べでは、世界のVLCC船隊の約20%は船齢20年を超えている。
ただ、データ分析会社ケプラーによると、老朽化したVLCCも解体されず、買い手が付いている。こうした船舶の行き先は、ロシアやイラン、ベネズエラなど制裁対象国の原油を、西側諸国の主要な海運・保険システムの外で輸送する「影の船団」だ。