Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 18日 ロイター] - 日銀は18日の金融政策決定会合で、6月以来となる政策金利の引き上げを決めた。官民による巨額投資の実現を掲げ、「青天井」とも評される概算要求を認めた高市早苗首相だが、日銀の判断は黙認した。複数の関係者への取材から背景を探ると、日米関係への配慮や、野放図な積極財政を懸念する市場との対話に苦慮する高市氏の立ち位置が見え隠れする。
<「利上げには依然否定的」、「致し方ない」>
「透明性高く、丁寧に一貫した説明を行う。関係大臣にしっかりと指示をした」。内閣改造を終えた高市氏は17日夜、首相官邸で記者団から市場の信認に関する認識を問われ、こう語った。あえて閣僚への「指示」を強調したのは、内閣全体として市場に目配りする姿勢を示すためとみられる。日銀についても「金利は様々な状況を背景に市場で決まるもの。基本的手法は日銀に委ねられている」とする通常の答弁の後に、あえて「そうあるべきと思っている」と自身のスタンスを付け加えた。
昨年10月の首相就任以来、利上げに否定的な立場を取ってきたとされる高市氏は、6月の利上げの際も日銀の判断を静観した。一方で、7月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」には、戦略的に重要と位置付ける17分野について2040年度までの累計で370兆円を超える官民投資を想定すると明記。年末の来年度予算案策定に向け、民間投資を呼び込める環境を整えつつ、市場の信認を損なわない政策に落とし込むための難しい調整が続いているのが現状だ。
事情を知る政府関係者は「高市氏は依然として利上げには否定的な考えを抱いている。日銀に余計なことはしてほしくない、というのが本音だろう」と話す。とはいえ、足元の円安・債券安(長期金利上昇)の基調に変化は乏しく、「ビハインド・ザ・カーブ(金融政策が後手に回る)」に対する懸念も市場でささやかれ続けている。前出とは別の関係者は、高市氏が市場動向を再び気にし始めていると明かした上で、「ある程度の利上げは致し方ないとの認識は持ちつつあるのではないか」と述べた。
<「再利上げの流れにも逆らえないだろう」>
最終的に、高市氏は今回の利上げ判断を黙認する道を選んだ。国内市場の状況に加え、高市氏が配慮せざるを得なかったのが、これまで以上に日本の財政・金融政策に踏み込んで言及する米国の存在だったと、複数の関係者は述べている。
ベセント米財務長官は8月30日、米ノースカロライナ州アシュビルで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に合わせて日銀の植田和男総裁と会談した。米財務省によると、会談ではインフレ期待を安定させるための取り組みが協議され、ベセント氏は過度な為替変動を回避するための健全な金融政策を植田氏に求めたという。
関係者の一人は、あまりに直接的に日本の政策へ発言するベセント氏の姿勢について、「イラン情勢の悪化が長引き、米も金利上昇に相当焦っているのではないか」と首をひねる。一方で、協調介入をはじめ、今後も米側の理解や協力を必要とする局面が続く可能性は否定できない。同関係者は、政府として米との関係を損なうわけにはいかないと強調した上で、「いま国際社会で日本が頼れるのは米だけだ。米に見放されたら終わりだ」とも本音を漏らした。
足元の市場動向や日米関係の維持を最優先とせざるを得ない事情を踏まえれば、高市氏が今回の利上げ判断にあらがえる余地は、そもそも極めて限られていたとも言えそうだ。また別の関係者は、日銀が年内にも再び利上げに踏み切る可能性を念頭に、「すでに市場は織り込んでいる。高市氏は再利上げの流れにも逆らえないだろう」と話した。
<「民間ができない政策で投資伸ばすのが本筋」>
高市氏の利上げに対する立ち位置や政策への影響について、専門家はどう見ているのか。
日銀の元審議委員で野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、今回の日銀の利上げは政府にとっても想定内のことであり、高市政権が財政政策を変更するきっかけにはならないとみる。その上で、政権が今年に入って以降も水面下では日銀に対して利上げ判断を慎重にするようけん制してきたと分析。「ベセント長官が明確に『日銀の利上げを邪魔するな』とのメッセージを強めてきたことで、水面下でも利上げのけん制ができなくなったのではないか」と述べた。
一方、日銀とすれば米側からの「干渉」によって政権のけん制をかわし、結果的に独立性を確保できているのが現状だと指摘。次の利上げが10月であれば「間隔が短すぎるので高市政権は難色を示すのではないか」としつつ、「12月であれば今回と同様3カ月後なので、経済状況次第で認めるのではないかとみている」とした。
現在の金利水準については、「短期金利は物価を加味した実質ベースでまだマイナスだが、長期金利は日本経済の実力見合いでかなり上がってきている」と説明。景気への影響が大きい長期金利を抑えるには、高市氏の財政政策の修正が必要だとの認識を示した上で、少子化対策や労働市場改革など民間ができない政策によって成長期待を高め、その結果として企業の投資を伸ばすのが本筋だと強調した。「高市氏が推し進める17分野の成長投資戦略は、個人的に見直すべきと考える」とも語った。
(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)