Sophie Yu Casey Hall
[北京/上海 3日 ロイター] - 巨額の値引き合戦が繰り広げられた中国の料理宅配競争は沈静化したかもしれないが、その最大の遺産は消費者の期待を高めたことにあるかもしれない。オンライン通販は今や、家電製品や花、さらには医薬品も注文してから1時間以内に届くようになったからだ。
美団、アリババ・グループ、京東集団(JDドット・コム)がクーポン配布や送料無料化、加盟店へのインセンティブ(報奨金)の支給に計数十億ドルを投じた1年を経て、いわゆる「インスタント・リテール」がオンライン通販の新たな戦場として台頭してきた。
各社の強力な販促支出により、倹約志向の消費者に数十億本単位の飲料が届けられた一方、アナリストらは、より重要な動きは買い物習慣が変化したことにあると指摘する。特に大都市では、消費者が食料品から化粧品に至るまで多種多様な商品が1時間以内に届くことを期待するようになった。飲料や料理の配達はアプリへの頻繁なアクセスを生むかもしれないが、より大きなビジネスチャンスはそうしたアクセスを利益率の高い非食品アイテムの購入へ転換することにある。
美団の陳少暉最高財務責任者(CFO)は決算説明会で「クイックコマースは、利便性と信頼性に対する消費者の期待感を根本的に変えた。これは後戻りできない生活習慣の変化だ」と訴えた。
商務省の調査によると、クイックコマースの小売市場は2026年末までに1兆2000億元(約1780億ドル)規模に達し、30年にかけて年平均12.6%のペースで成長すると見込まれている。
北京在住のジャン・ヤンシンさんは友人との昼食へ出かける途中、インターネット上で話題になったアニメ映画のキャラクターをモチーフにした「牛来(ニウ・ライ)」の人形を注文した。レストランの席に着く頃には、配達員が既に商品を持って到着していた。
ジャンさんは「今ではこの買い方に慣れた」とし、「欲しい物を思いついたら、すぐに買って手に入れている」と話した。
チャイナ・デジタル・リテール・レポートのアナリスト、エド・サンダー氏は、このように大都市の消費者は既にクイックコマースに慣れ親しんでいるとして「プラットフォーム各社がクイックコマース市場の獲得にこれほど力を入れているのは、それが従来の販売網を浸食することになるからだ」と解説した。
<莫大なコスト、勝者は不透明>
市場監督当局は昨年、美団、JDドット・コム、アリババなどを数回にわたって呼び出して競争ルールの順守を指導するとともに、消費者や加盟業者、配達員の保護強化を求めた。今年4月には料理宅配での安全基準に違反があったとして、これらの企業に計36億元の罰金を科した。
食品業界アナリストの朱丹蓬氏は「政府による厳しい介入を経て、プラットフォーム間の競争は終焉を迎えた」とした上で、「この争いは消費者にとってメリットがあったが、小規模な飲食店経営者への打撃は依然として続いている」と問題視した。
カフェチェーンのラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)は、2026年4―6月期の直営店の既存店売上高が前年同期比で5.3%減った。電子商取引(EC)プラットフォームによる値引きの大きな恩恵を受けていた前年同期は13.8%増えていた。
プラットフォーム運営企業も苦戦している。美団は25年に赤字に転落し、アリババは減益になり、JDドット・コムは利益がほとんどなかった。
サンダー氏は「まったくもってばかげたことだった」とし、「持続可能な状況ではなかったことは間違いない」と指摘する。
ゴールドマン・サックスは、美団の料理宅配市場でのシェアが価格競争前の75―80%から低下したと説明。
アナリシスのデータは料理宅配市場をクイックコマースのカテゴリーに組み込んでおり、26年第2・四半期の美団のシェアは45.3%だった。首位はアリババのタオバオ・インスタントコマース(淘宝閃購)の45.7%で、JDドット・コムは7.7%だった。
アナリストらは、プラットフォーム運営各社が補助金削減後に利用者を維持できなければ、この状況は再び変化する可能性があるとの見方を示す。
<次の戦い>
2026年第2・四半期決算を見ると、プラットフォーム運営各社は料理宅配サービスの割引によって増やした利用者を、より広範なクイックコマース事業を通じて収益改善に結び付けることに力を入れている状況がうかがえる。
タオバオ・インスタントコマースの売上高は前年同期比45%増の533億元に達した。JDドット・コムはクイックコマース事業の赤字が大幅に減ったとし、料理宅配事業の赤字縮小が寄与したと説明した。加盟店および配達員が最大規模の美団は、補助金支出が減少したことで約1年ぶりに黒字に転じた。
北京に拠点を置くDCCIインターネット研究院院長の劉興亮院長は「業界は値引き通じて利用者を獲得する第一段階から、利用者を維持し、供給を拡大し、注文単位の採算性を計算する第二段階へと移行した」と解説する。
各社は補助金ではなく、物流インフラを通じてこの第二段階での競争を繰り広げている。
サンダー氏は、美団は食品事業を拡大するためにスーパーマーケット網を構築している一方、アリババとJDドット・コムはダークストア(倉庫型店舗)や、人口密集地域で1時間以内の超高速配達を可能にする「ライトニング倉庫」を開設していると紹介。その上で「今や各社は単に多額のマーケティング予算を投じるのではなく、実際に何かを構築している」と指摘した。