Helen Coster Dawn Kopecki
[ニューヨーク 3日 ロイター] - 米南部テキサス州のアボット知事(共和党)はほんの1年足らず前、テキサスを「人工知能(AI)開発の中心地」と称賛していた。しかし再選を目指す現在、データセンター(DC)に対する大規模な新規制を訴える姿勢に転じた。
この動きはアボット氏に限った話ではない。全米では11月の議会中間選挙を前に、野党民主党がDCに対する地域住民の反対運動を追い風とする中、与党共和党でもトランプ大統領の「AI推進路線」から距離を置く動きが広がっている。
中西部のミシガン、ウィスコンシン、東部ペンシルベニアを含む少なくとも5州で、共和党候補者らがDCに対してより厳しい姿勢を打ち出したり、開発規制を提案しており、党内に新たな対立軸が生まれている。
コンサルティング会社パープル・ストラテジーズの共和党ストラテジスト、ブラッド・デイスプリング氏は「中国とのAI競争に勝とうとする経済成長志向と、生活費高騰への不満を背景としたポピュリズム的な反発とが衝突している」と指摘する。
特に大きな変化が起きているのがテキサス州だ。保守色が強く、石油産業で知られる同州は長年、全米屈指のテクノロジー拠点への転換を推進。豊富な土地と企業に優しい規制環境により、宇宙開発企業スペースXやIT大手オラクルといった大手テクノロジー企業を誘致し、実業家イーロン・マスク氏のような著名な起業家を引きつけてきた。
ところがそのテキサス州でさえ、世論は急速にDCに対し批判的になっている。反対派の主張では、DCが電気料金や水道料金を押し上げ、夜間の光害を引き起こす一方で、州が提供してきた優遇措置に見合う税収や雇用を生み出していないという。
テキサス大学の超党派研究プロジェクトであるテキサス・ポリティクス・プロジェクトが8月に実施した世論調査では、自分の住む地域にDCが建設されることを支持すると答えた人は30%にとどまった。
こうした状況を受け、大手テック企業は巻き返しを図ろうとしている。選挙関連の記録や企業・政治団体の開示資料によると、業界全体で3億ドル(約468億円)超を中間選挙に投じるほか、DCの利点を消費者へ訴える大規模な広告キャンペーンも展開している。
それでも反発は収まらず、アボット氏はDCへの包括的な新規制、建設に対する税優遇の廃止、さらに農村部での開発制限を提案した。同氏が8月3日に発表した州監査によって、新たな送電網接続の承認手続きは事実上停止された。
接戦となっている上院選に出馬している共和党のケン・パクストン州司法長官も、AIに対する姿勢を厳格化。先月末には「米国の競争力を維持しつつ、DCの悪影響を抑える」とする新たな計画を公表した。
このようなアボット氏やパクストン氏の方針転換は、DC反対派に対して「米国が後進的で貧しい状態に逆戻りする危険がある」と自身の交流サイト(SNS)で警告したトランプ氏の立場とは対照的と言える。
もっとも複数の共和党幹部は、対立の構図を否定する。共和党全国委員会(RNC)のナタリー・バルダサーレ報道官は「各候補者には、それぞれの地域社会にとって最善の選択をするよう助言している。一律の対応ではない」と語った。
<庶民派をアピール>
テキサス州は、AI関連のDC開発において全米でも最大かつ成長著しい市場の1つだ。アビリーンにはオープンAIの目玉プロジェクトである「スターゲート」キャンパスがあり、そのほかにも大規模案件が進行している。
パクストン氏自身も以前は、DCを雇用創出と経済成長の原動力として支持していた。州上院議員だった2013年には、後にDC投資を大きく後押しすることになる税制優遇措置に賛成票を投じている。
しかし今年2月、テキサス州フッド郡の地方当局が、DC開発を一時停止する法的権限があるかどうかについてパクストン氏に見解を求めた。それから半年が経過した現在も、州司法長官の公式サイトによれば回答は出されていない。
パクストン氏の対抗馬である民主党のジェームズ・タラリコ氏は、パクストン氏がテック業界から政治献金を受け取っていることに言及し「巨大DC企業との関係が選挙で不利に働くことを恐れ、露骨な方針転換をしようとしている」と批判した。
一方パクストン陣営は、立場の変化に関する質問には回答しなかったが、タラリコ氏も同様の企業から資金提供を受けていると反論。タラリコ氏が23年に州上院議員として大規模DC向けの売上税優遇措置に賛成票を投じたことも批判材料に挙げるとともに「彼は偽善者で、沿岸部の億万長者の支援者らに買収されている」と主張した。
複数の専門家は、双方の候補者が巨額の献金を行う支援者に立ち向かう「庶民派」として自らをアピールしていること自体、状況が大きく変化したことを示していると指摘する。特に共和党は長年、大企業を支援する政党としての立場を取ってきた。それだけにメリーランド大学の政治学者デービッド・カロル氏は「DCを推進する巨大テック企業と距離を置くことが、共和党候補者にとって重要になっている」と分析する。
知事選では、アボット氏の対立候補となっている民主党のジーナ・イノホサ氏が「DCこそ今回の選挙最大の争点だ」と訴えている。イノホサ氏はインタビューで「新たなDC開発承認を一時停止したアボット氏の措置が、選挙翌日の11月4日に終了することを誰もが知っている」と述べた。
これに対してアボット陣営の報道官は「知事は規制当局に対し、DCが地域社会に必要な水資源やテキサス電力網の電力を奪うことがないよう指示している。消費者の電力コストを引き下げ、自らの電力インフラ費用は自ら負担させる方針だ」と力説した。
<テック企業の巻き返し>
DCが今回の中間選挙で重要な政治争点となった背景には、巨大テック企業が世論の反発への対応に遅れを取ったためだとの見方が強い。共和党の大統領候補だったミット・ロムニー氏の元顧問で、政治ストラテジストのケビン・マッデン氏は「地域住民の反対が2年間続いていたにもかかわらず、業界は必要なレベルで十分な説明や対話を行ってこなかった」と指摘した。
主要AI企業は現在、その失敗を挽回しようとしている。連邦の選挙関連書類によると、アンソロピックと関係する2つのスーパーPAC(政治活動委員会)はテキサス州で累計260万ドル超を支出。オープンAIの共同創業者グレッグ・ブロックマン氏と関係のあるスーパーPACは州内で480万ドル超を投じ、メタも州レベル選挙を対象とするスーパーPACに約140万ドルを拠出している。
それでも、DC支持派にとって世論の流れを変えるのは簡単ではない。今や反対論は民主党員だけでなく共和党員にも広がっているからだ。カロル氏は「あらゆる問題で意見が激しく対立している両党が、DCへの反対論でだけ見事な超党派の結束を見せているのは、非常に印象的だ」と語った。