Parisa Hafezi
[ドバイ 17日 ロイター] - 米国との戦争で耐久力を示してきたイランだが、指導部は国内の不満の高まりに神経をとがらせている。トランプ米大統領が追加の経済制裁を打ち出せば、国民生活は一段と悪化し、抗議行動が再燃する恐れがある。イスラム共和国体制の正統性も、これまで以上に揺らぎかねない。
ベセント米財務長官は13日、翌週にもイランに対して「かつてない」措置を講じると発言。翌14日にはトランプ氏が、米国はイランに対して経済的に厳しい打撃を与えると表明した。米政府は、具体的な措置の内容を明らかにしていない。
イラン指導部は約6カ月に及ぶ紛争に耐え、世界的な石油輸送の要衝であるホルムズ海峡を事実上封鎖するなど強気の姿勢を崩していない。ただ3人の当局者によると、全国規模の騒乱に発展しかねない圧力が高まっているという。ロイターは今回、イランの当局者3人、政界関係者2人、元政府関係者1人、そして十数人の市民に話を聞いた。多くは報復への懸念や報道機関への発言権限がないことを理由に、匿名を条件に取材に応じた。
戦争開始以前からイランは高インフレや通貨安、エネルギー不足、各国の制裁など、根深い構造的問題を抱えていた。インフラの損傷や貿易の停滞、生産減少、復興費用といった重い負担がそこに追い打ちをかけている。
中部イスファハンに住む2児の父アルシアさんは、土木技師としてイランの建設業界で10年働いてきた。しかし、2月28日の米国・イスラエルによる攻撃で戦争が始まると、建設事業の大半は停止状態に追い込まれた。事業の延期や中止が相次ぎ、コストも急騰する中、アルシアさんは職探しに苦しんでいる。早期回復の見込みはほとんどない。「不安だ。トランプ氏が制裁を強化すれば、市民はどうやって暮らしていけばいいのか。軍事的にも経済的にも自国が罰せられるのは望まない。私たちは既に苦境にある」
アルシアさんの置かれた苦境は、イラン全土に広がっている。米軍の攻撃で工場や発電所、輸送網などの重要インフラが被害を受け、既に疲弊していた経済への圧力は一段と強まっている。
南部の港湾都市バンダルアッバスで暮らすモフセンさん(53)は、イランが米国による空爆への報復として同地域の米軍基地や資産を標的にしたことを受け、経営していた湾岸諸国との小規模な輸出入事業を閉鎖せざるを得なくなったという。「従業員10人を解雇せざるを得なかった。つらい決断だったが、彼らに給与を払い続ける余裕がない。今は家族を養うため、貯蓄を取り崩している」
<インフレと先行き不安が家計を圧迫>
イラン統計センターによると、7月の年間インフレ率は66%に到達し、消費者物価指数(CPI)は前年同月比で87.9%上昇。食料品価格の上昇率は前年同月比128%に達している。
指導部にとって最大の脅威は、経済的苦境そのものではない。生活苦の悪化が大規模な抗議や騒乱を再燃させるリスクにあると、政界関係者2人と当局者1人は指摘する。
高官人事にも当局の懸念が表れていると元改革派当局者は言う。先週、イランの民兵組織「バシジ」の司令官に起用されたホセイン・タエブ氏は、過去の弾圧を主導した人物の1人だ。バシジは準軍事組織として強力なイランの「イスラム革命防衛隊(IRGC)」と連携し、聖職者支配層が抗議行動を鎮圧するために投入されてきた。
近年、イランではたびたび、経済的不満が全国規模の抗議デモへと発展している。1月には、生活苦を背景とした反政府デモが全国に広がったが、IRGCとバシジによって鎮圧され、数千人が死亡した。
人権団体によるとイランの聖職者支配層はここ数カ月、社会不安の再燃を警戒し、ジャーナリストや弁護士、活動家、人権擁護者、学生を対象に、処刑、拘束、出頭要請、長期刑を相次いで行っている。当局は戦時下の安定維持に必要だと主張する一方、こうした対応がかえって、経済的圧力に不満を抱く国民と聖職者支配層との溝を深めかねないと警告する声もある。
<「給料は数日で底をつく」>
多くの家庭では肉類などの主食や必需品を控え、より安価な代替品に切り替えている。
「子どもたちの前で情けない。給料は数日で底をつく。食卓から肉は消えた。これからどう暮らしていけばいいのか、見当もつかない」と、中部ヤズドで働く政府職員のホセインさんは嘆く。
統計センターによると、3月の家賃は前年同月比31%上昇。国営メディアは首都テヘランの住宅価格が前年比で約50%上昇したと報じている。
イランでは今年、最低賃金が約60%引き上げられたものの、通貨リアル安が続き購買力は低下している。最低賃金のドル換算額は3月下旬以降、約105ドル(約1万6700円)から86ドルまで落ち込んだ。
ビジャンさん(40)は15年前に就職した当初、エンジニアとして月に約1000ドルを稼いでいた。その後、生計を補うためにオンライン家庭教師の仕事を始めたという。だが今では妻と合わせても月400ドルを得るのがやっとで、生活費の安い地方へ移るためにテヘランを離れた。「以前は1日5、6時間働けば十分だった。今は働きながら新たな仕事を探し、仕事が足りないことへの不安を抱える毎日の繰り返しだ」と語る。
多くのイラン国民にとって、戦闘再開への恐れは将来設計を一層困難にしている。
<海上封鎖で物流コスト急騰>
イランは陸路やカスピ海経由などに迂回することで生活必需品の流通維持を図ってきたが、これらの代替ルートもまた圧力を受けている。陸上輸送網は橋が攻撃を受けたために寸断され、物資をイラン国内へ運び入れる時間とコストは増大している。
ペゼシュキアン大統領は先週、「問題は何倍にも膨らむ一方で、収入は減少している」と述べ、厳しい経済状況を認めた。従来は船で届いていた物資が、現在はより遠回りのルートでイランに運ばれるようになり、価格を押し上げていると説明。石油販売の減少に加え、被害を受けたり経営難に陥ったりした企業からの税収も落ち込んでいるとの認識を示した。
イランのレザ・セパフバンド議員は15日、国営イラン労働通信(ILNA)に対し、封鎖によってガソリン輸入も事実上途絶えたと発言。国内のガソリン消費量は日量1億3700万リットルに上る一方、生産量は設備能力の上限に近い日量約1億3000万リットルにとどまり、需要を賄えていないと指摘した。