独占試写会では上映後、中東ジャーナリストの川上泰徳氏(左)とライターのISO氏のトークショーが行われた

ISO氏は、川上氏の『壁の外側と内側』を見て驚いたのは「『普通のイスラエル人』がパレスチナ人のことをどう見ているかという部分」だったと振り返りつつ、「SNSでこれだけガザ地区の惨状が拡散されているなか、ヒンド・ラジャブ事件についてイスラエル国内ではどのように受け止められているのか?」と川上氏に問いかけた。

川上氏は「イスラエル人のほとんどが、パレスチナで何が起こっているかを知りません」と自身の取材を踏まえて語る。

「ハマスによる越境攻撃があって1000人以上(のイスラエル人が)が亡くなったことは知っている。でもその後、イスラエル軍がガザを攻撃して多くの子供が亡くなっているという事実を、数字以上の実感としては知らない。今回取材をする中でも、壁の向こうのガザで起こっていることについて『そんなに何も知らないの?』と驚くほどだった」

「情報化社会といわれる現代で、それほど隣の状況が伝わらないというのはなかなか考えづらいが」と驚きを隠せないISO氏に対し、川上氏は今のSNS社会は選択的なので、自分たちが知りたくない情報は自分で排除できてしまう。それを痛感する」と説明した。

ガザを伝える上で映画が果たせる役割

ISO氏は映画の制作手法について、「ヒンドさんの姿を映像で再現することもできたはずなのにそれを選ばず、救助にあたる赤新月社の人たちがいかに命がけで、強いストレスの中で救出活動をしているかに焦点を当てている。それによりこの出来事を消費的にせず、より広く伝えることに成功していると思う」と語った。

これに対して川上氏は、昨年公開されたドキュメンタリー映画『手に魂を込め、歩いてみれば』を例に挙げる。

この映画は、パリにいる監督が携帯電話越しにガザにいる女性ジャーナリストとやり取りする様子を捉えており、ガザの破壊そのものは焦点になっていない。

「私の作品でもそうだが、ガザでの悲惨な状況はニュースやSNSで皆知っているから、それを出してしまうと思考が止まってしまう。そこに至る過程をどう描くかは、映画だからこそできることだ」と説明する。

ニュースや報道の数字の裏に「人間」がいる
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