Maki Shiraki

[東京 27日 ロイター] - 「中国企業が日本専用の車を開発するのはいったいどんな狙いがあって、どんな車をつくったのか。単純に興味が湧いた」──。中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)の軽乗用車EV「ラッコ」の試乗を申し込んだ神戸市在住の40代会社員はこう語る。「基本グレードの価格は『補助金の逆境』を跳ねのけるぐらい安くないとインパクトがない」とも付け加えた。

BYDが「ラッコ」を28日に発売する。同社は2023年の日本の乗用車市場参入以来、販売苦戦が続いており、ラッコで挽回を図りたい考えだ。ラッコは外資として初めて日本独自の軽規格に合わせてゼロから設計。軽の売れ筋である背高ワゴンのタイプや人気のスライドドアを採用しており、「日本車の解像度が高い」(同会社員)。

果たしてシェアを日本勢から奪えるか。業界関係者の多くは「まずは価格次第だ」と口をそろえる。ラッコは、日産自動車の軽EV「サクラ」(244万8600円から)などの日本勢を意識した価格設定になる見通しだが、国からの補助金の金額は販売店や整備体制、経済安全保障の点から電池の供給安定性などで決まる。参入から約3年半のBYDは販売店などの拡充は途上。電池メーカーとして創業した同社は自社の中国製電池を搭載するため、投入済みEVに適用された国の補助金は現在、日本車よりも安い一律15万円となっている。

立花証券の庵原浩樹アナリストは「補助金の有無に関わらず200万円以下なら日本車メーカーは要警戒だろう」と指摘。自動車調査会社カノラマジャパンの宮尾健アナリストも「補助金抜きで200万円を切ったら一定程度は売れる」と予想する。仕様が日本車に劣らず、低価格なら「コストパフォーマンスが良い」と判断した一定層が関心を示す可能性はあるとみている。物価高の中、中国製に抵抗の少ない若者や宅配などで使う法人需要は取り込めるのではないかとの見立てだ。

冒頭の会社員も今はマツダ車とダイハツの軽のエンジン車を持つが、「補助金込みで200万円以下」なら購入に向けて検討に値すると話す。だが、国の補助金を使うと4年の保有義務があり、「気に入らなければすぐ乗り換えたいが、EVは下取り価格が低すぎる。とにかく安く買って乗りつぶす覚悟でないと買えない」とも語った。

販売会社BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長はこれまで、ラッコは日本で発売済みの小型車「ドルフィン」(約299万円)より安くし、昨年10月のロイターのインタビューでも「魅力的で手の届きやすい」価格にしたいと話していた。ターゲット顧客は「特定の層に限定せず、幅広い世代だ」としつつ、地方・郊外で通勤や送迎、買い物などに使う人や2台目需要などを想定しているという。

<まずは認知度向上>

ラッコの受注目標は26年末までに1万台。25年のBYD全体の世界販売は前年比7.7%増の約460万台。同社関係者は「ラッコの台数貢献は全体から見れば大したことはないが、売れれば大きな成果だ」といい、国内認知度や他国での信頼性向上につながると期待を寄せる。

カノラマジャパンの宮尾氏は、BYDは投入済みEVの販売が振るわず背水の陣だとして「相当な覚悟でラッコを売ろうとするはずだ」と語り、「中国販売の不振がラッコへの期待をさらに高めている」とも指摘する。

BYDの日本販売は思うように伸びていない。23年は1446台、24年は2223台、25年は3742台で累計7400台強。東福寺社長はインタビューで、販売実績は「期待値に対してゼロが1つ足りない」と話していた。全体の業績も足元で急減速がかかっている。26年1━3月期の純利益は前年同期比55%減、同じ期として6年ぶりの減益に沈んだ。中国では価格競争が激しく、EVなど新エネルギー車(NEV)の取得税の全額免除措置が1月から半額免除に縮小されたことも響いた。

立花証券の庵原氏は「BYDはラッコでたくさん儲けようとはあまり思っておらず、軽を品揃えに加えて知名度アップを図りたいのだろう」と分析。「品質に厳しい日本で売れたら、ブランドに一定の箔もつく」としてアジアなどへの波及効果も狙うとにらむ。

事業環境も今は逆風だ。昨年11月の高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁に中国が反発して以来、両国関係の緊張は続いており、「タイミングが悪い」(宮尾氏)。同関係者は「日中関係悪化という特殊事情はあるが、本社からは厳しい視線が注がれている。ラッコで挽回したい」と話す。

<ヤナセ参入、驚きも効果未知数>

価格と並んで重要なのが販売店網とサービス体制だ。BYDの販売店数は7月末時点で正規店が56店舗、業販店などを含め77拠点。すでに閉店した店舗もあり、目標だった「25年末に100店舗」という体制は築けていないが、47都道府県に1拠点以上を展開し、軽の需要が強い地方を中心に小型店舗網を張り巡らせる方針だ。

輸入車販売の老舗ヤナセによる出店も注目されている。同社が中国ブランドを扱うのは初めてで、BYD販売店としては国内53店舗目。当面は1店舗のみで今後の出店は販売状況をみながらBYDと協議する。立花証券の庵原氏は「驚いた。ヤナセは独メルセデス・ベンツや独BMWなどの高級輸入車の販売代理店のイメージが強い。BYDのイメージアップに少しはなる」と指摘。ヤナセの整備体制も安心につながるとの見方だが、実際の販売に結びつくかは「未知数」とみている。

ヤナセ広報は「世界中から評価を受けているEVブランドのBYDを扱うことはEV販売のノウハウを学べるメリットがあり、今後の自社のEVインフラ拡充につなげることができる」と説明。BYDもヤナセの販売力や接客を学ぶことができるという。

日本勢も自社の軽EVでラッコを迎え撃つ。日産とホンダは商品力はもとより、EVが整備できる2000店規模の販売網も強みだ。ホンダは商用車「N─VAN e:」、乗用車「N─ONE e:」を投入済みで、価格はともに269万9400円から。国の補助金は自家用の場合、サクラを含む3車種とも軽の上限である58万円。スズキも今年度中に軽EVを投入予定で、鈴木俊宏社長は昨秋、「価格は他社(の製品)を見ながら決定する」としつつ、「利益なき事業の繁栄はない」として価格競争からは距離を置きたいとも語った。

BYDは日本の「聖域」にどこまで食い込めるか。28日の価格発表はその行方を占う第一歩となる。

(白木真紀編集:橋本浩)

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