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Richard Cowan
[ワシントン 30日 ロイター] - 米国建国250年の記念日を控え、トランプ米大統領肝いりの移動博物館「フリーダム・トラック」が全米巡回ツアーを始めている。 館内では人工知能(AI)で生成された初代大統領のジョージ・ワシントンの映像が来場者を出迎え、「汝(なんじ)の権利は神からの贈り物」と告げる。天井には「われわれは神を信ず(In God We Trust)」の文字が掲げられている。
「フリーダム250」と呼ばれる団体が主催するこの移動博物館はトレーラーのコンテナを利用したもので、 1776年7月4日の独立宣言を記念する祝日を前に、西海岸のワシントン州から東海岸のノースカロライナ州まで6台が各地で巡回を始めた。主催者らはこの巡回展を、独立戦争と、そこから誕生した国をたたえる1年間にわたる愛国的な祝賀行事の一つと位置付けている。
フリーダム250の広報担当ラチェル・ライスナー氏は、同団体は「50州すべてで、米国精神を祝い、この国の最良の姿を示す統一的な運動を巻き起こす」と述べた。
しかし、この企画には反発も出ている。マサチューセッツ州では6月、フリーダム・トラックの巡回に住民の一部が反対し、計画が中止になったと地元メディアが報じた。批判派は、この企画の展示や他の祝賀行事は米国史を過度に宗教的に描き、奴隷制度や人種的不公正といった問題を覆い隠していると指摘している。
民主党は、トラックやその他フリーダム250の様々な行事に投じられた税金や民間からの寄付金に不透明な点があると批判している。連邦独立機関の博物館・図書館サービス機構(IMLS)が6台のトレーラーに1400万ドル(約23億円)の補助金を拠出し、これにフリーダム250側が1000万ドルを上乗せしている。
米上院民主党議員のグループは3月3日、バーガム内務長官宛てに書簡を送り、「米国民に対して説明責任を負わない民間団体」に政府資金がなぜ振り向けられたのか、また、それらの資金が「海外から集められた可能性のある」民間資金と混同されていないかをただした。
上院関係者によると、これに対する回答はまだない。
一方、下院民主党議員は、「アメリカ250」の行事のために議会が計上した予算が、ホワイトハウス主導の「フリーダム250」の祝賀行事に流用されていないかを調査している。
民主党のハフマン下院議員(カリフォルニア州選出)は下院公聴会で、フリーダム250が主催するトラック博物館などの行事について、「世俗的な啓蒙思想に基づく建国という輝かしい成果が、キリスト教ナショナリズムのぼんやりとした作り話で覆い隠されている」と批判した。
議会公聴会で共和党は、民主党の主張に反論した。
共和党のウェスターマン下院議員(アーカンソー州選出)は、独立宣言前文の「われわれは以下の事実を自明のものと信じる。すなわち、すべての人は平等につくられ、一定の不可譲の権利を創造主から与えられている」との一節を引用して反論した。
環境責任のための公職員団体(PEER)は5月、フリーダム250の資金や活動に関する文書についての情報自由法(FOIA)に基づく開示請求に内務省が応じないとして、同省を提訴した。同団体の開示請求には、民間団体の宣伝活動への連邦職員の動員や、党派的な目的への連邦資金の支出、またトランプ氏との面会機会の「売買」といった疑問点が含まれていた。
PEERの上級顧問アーロン・ロイド氏は電話取材に対し「どのイベントにいくら使うのか、金の入り口や出口に関する決定などすべてがブラックボックスの中にある。どの資金がどこに流れたのかを説明する政府の文書が欲しい」と語った。
ホワイトハウスは、巡回展やその他の250周年祝賀行事における宗教の位置付けに関する質問に直接は回答しなかった。デービス・イングル報道官は電子メールで「2026年は愛国心と国民の誇りが新たによみがえる年になる」との声明を寄せた。
<祈りの祝祭>
5月17日、有名絵画「デラウェア川を渡るワシントン」を側面に描いたフリーダム・トラックがワシントンの連邦議会議事堂から数ブロックの場所に置かれ、「献身250:祈り、賛美、感謝の全国的祝祭」が終日開催された。
ホワイトハウスのホームページは、フリーダム250の「祈るアメリカ(America Prays)」というページを宣伝。このサイトは訪問者に、週1時間を米国と国民のために祈るよう促している。参加団体として「pray.com」が挙げられているが、この宗教系ソーシャルネットワーキングサイトは、ユーザー情報を収集し、外部企業と共有する場合があるとしている。
フリーダム・トラックの展示内容は、保守系キリスト教のリベラルアーツ・カレッジである私立ヒルズデール・カレッジと、ユダヤ・キリスト教的価値観を掲げる「教育エンターテインメント」コンテンツを制作するプレーガーU(PragerU)が作成した。
プレーガーUは、郵便投票を選挙不正の元凶として描き、選挙がいかに盗まれ得るかを探る動画を制作してきた。2020年大統領選で民主党のバイデン氏に敗れて以降トランプ氏が繰り返してきた、広く否定された主張を反映するものだ。
別の動画「プライド月間 なぜこんなことをするのか?」は、性的少数者(LGBTQ)コミュニティーによる6月の行事に疑問を呈している。
プレーガーUは、フリーダム250との金銭的な取り決めに関するコメントの要請には応じなかった。
<宗教色に染まった建国記念日>
一部の歴史家は、トランプ政権が取り入れた宗教関連のプレゼンテーションが、建国250周年記念と関係があるのか疑問を投げかけている。
南メソジスト大学で初期アメリカ史を専門とするケイト・カート教授は、独立戦争当時、英国側に付いたプロテスタントの「王党派」と、独立を求める植民地の「愛国派」は、いずれも自らの宗教的価値観に沿って行動していると信じていたと指摘。
その上で、「英本国と植民地の対立は、実際には宗教とは何の関係もなかった」と付け加えた。
さらに、米国の建国の父たちは「宗教が非常に分断的なものになり得ることを強く認識していた」と指摘。そのため国教を置かない選択をしたと説明した。
ピュー・リサーチセンターの2023─24年調査によると、米成人の62%がキリスト教徒を自認している。このうち、福音派プロテスタントが23%と、単一の宗派としては最多となっている。
米成人の約29%は特定の宗教を信仰していない。この中には無神論者や不可知論者が含まれるほか、「特に何も信じていない」と答えた人が19%いる。
米国の建国250周年で焦点となっているのは、宗教だけではない。
トランプ政権は、国立公園の展示資料から奴隷制度や気候変動に関する説明を削除する動きを進めており、複数の訴訟が起きている。
1976年の米国建国200周年を覚えている人々は、当時をより対立の少ない祝賀だったと振り返る。
米国立公園保護協会の文化資源担当上級ディレクター、アラン・スピアーズ氏は、50年前の米国は、先住民系や黒人系、女性の貢献について踏み込んだ公的議論をあまり行っていなかったと語った。
同氏は「1980年代でそれが変わった」と指摘。米国ではそれ以降、歴史が「馬にまたがり剣を持つ男たちの物語」として描かれることがなくなったと振り返った。