今の時代に欠けているもの
答えは、アメリカ建国の理念ではない。それは少なくとも願望や発想の源泉として、これまで常に存在し続けてきた。
今の時代に欠けているのは、少なくとも建国の理念実現に向けて前進するための「場」を開いていた規範や特質だ。ドナルド・トランプ現大統領のアメリカにはそれが痛ましいほど欠けているが、アメリカ人はそれを取り戻すという希望を捨てる必要はない。
特に重要なのは次の3つだ。
①礼儀と品位
どんな社会であれ、あらゆる階層が礼儀や品位を重んじてきたわけではない。だがアメリカ史の大半を通じて、公人は意見の異なる相手を見下したり悪魔化したりしないという規範があった。そのおかげで真の意思疎通と公的な場における熟議の機会が開かれていた。
例えば1858年にエイブラハム・リンカーンとスティーブン・ダグラスは政策面で激しくやり合ったが、個人への攻撃は紳士的だった。
ビル・クリントン大統領は再選を目指していた1996年、共和党の対立候補ボブ・ドール上院議員との最初のテレビ討論会の冒頭でこう切り出した。
「まず、私がドール上院議員とその公職での実績をどれほど尊敬しているかを改めて申し上げたい。そして今回の選挙戦と討論会を侮辱ではなく、アイデアの争いにするために全力を尽くす」
民主党のヒラリー・クリントン上院議員はかつて、共和党のジョン・マケイン上院議員について「愛国者であり、友人でもあることを光栄に思う」と語った。
対照的にトランプは、2024年の大統領選で民主党の対立候補カマラ・ハリスを「ひどい人間」「最低の副大統領」「IQが低い」などと公然と罵倒した。