Kentaro Sugiyama Takahiko Wada

[東京 1日 ロイター] - 6月の日銀短観では、企業の価格転嫁姿勢が引き続き積極的なことが示唆された。物価上振れリスクを見極める上で注目されていた項目で、民間エコノミストの間では日銀の金利正常化路線を後押しする内容との見方が出ている。一方、追加利上げの具体的な時期に関しては、10月か12月が有力とみる向きが多いものの、経済成長を重視する高市早苗政権との調整が波乱要因として読みにくさが指摘されている。

短観では、大企業の販売価格判断DIが製造業、非製造業ともにプラス40と、3月調査から大きく上昇した。中東情勢の緊迫化の影響は公表済みの国内企業物価指数にも表れていたが、今回の短観で企業の価格転嫁姿勢が積極化していることが改めて示されたかたちだ。

企業の物価見通し(全規模・全産業)も1年後、3年後、5年後のいずれも上方修正された。企業の販売価格判断や物価見通しの上方修正は、企業のインフレ期待の強まりを示唆する。

SBI新生銀行の森翔太郎シニアエコノミストは、今回の調査は米国とイランの戦闘終結合意で原油先物価格が下げ基調となっていることが十分織り込まれていない可能性があると指摘。早期の利上げを強く後押しするものではないものの、「年内の追加利上げをサポートする内容」との見方を示す。

このほか、大企業・製造業の業況判断DIも、小幅悪化を見込む市場予想に反して改善した。堅調な人工知能(AI)・半導体需要や価格転嫁の進展に加え、仕入れ価格の上昇や原材料の調達難を見越した前倒し需要が支援材料となったという。

マーケットコンシェルジュの上野泰也代表は「AI関連の需要が足元の景気を少なくとも当面は支えそうであることが明らかになった。雇用人員判断DIから改めて確認された人手不足感の強さなど、ほかにも日銀の追加利上げ方針をサポートする部分が見いだされる。さらなる利上げを目指す日銀にとって、明らかに有利な材料だ」と話す。

<日銀、物価上振れへ警戒続く>

日銀は6月利上げでインフレ対応を優先する姿勢を鮮明にした。金融環境は引き続き緩和的で、経済・物価・金融情勢を見極めながら政策金利を引き上げていく方針だ。

日銀では、物価上振れへの警戒感がなお強い。中東情勢の悪化を受けて企業が重要物資の代替調達を進めた結果、景気の下押しリスクは後退したが、企業の代替調達には追加の費用負担が伴う。AI需要の高まりで半導体や銅価格が上昇していることも警戒されている。

1日午前時点の翌日物金利スワップ(OIS)市場における追加利上げの織り込みは、10月までに6割弱、12月までに9割強となっている。ただ、実現には物価や賃金動向に加え、高市政権の成長重視路線との整合性をどう説明していくかも焦点となる。

政府は7月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で、強い経済実現に向け「適切な金融政策運営が行われることも非常に重要」との認識を新たに示す。経済政策との整合性を規定する日銀法第4条や、政府・日銀による共同声明を踏まえ、政府と緊密に連携することを求める。

日銀は、利上げが政府の経済政策と矛盾しないという立場を強調している。内田真一副総裁は6月の利上げについて、原油高を起点とする幅広い品目の価格上昇や、基調的な物価上昇率の上振れリスクに対応するため行ったと説明。利上げ後も金融環境は緩和的で、経済活動や中長期的な投資を支える状況にあるとの認識を示した。

その後も幹部からは「金融緩和度合いの必要な調整が遅れると物価上振れリスクが顕在化し、その後の景気下押しにつながる恐れがある」(氷見野良三副総裁)、「適切な金融政策運営を通じて物価安定を実現することは、成長投資の拡大を支える土台としても重要」(中村康治理事)といった説明が国会でなされている。

SMBC日興証​券の丸山凜途シニア金利・為替スト​ラテジス⁠トは「利上げには借入コストを押し上げる側面があり、民需の下押し要因と受け止められやすいが、利上げを見送れば物価上昇を通じた企業のコスト負担が続く可能性がある」と指摘。「日銀は、利上げによる負担よりも、正常化を遅らせるコストの方が大きいと判断していることを今後も粘り強く説明していく必要がある」と話す。

経済官庁などには年内追加利上げに理解を示す声がある。ただ、中東情勢など不確実性は高く、利上げ時期については予断を持つべきではないとの見方も聞かれる。追加利上げの是非を巡る議論は今後、経済指標の強弱だけでなく、「なぜ今も正常化が必要なのか」を日銀執行部がどこまで説得力を持って示せるかに軸足が移りそうだ。

(杉山健太郎、和田崇彦 編集:橋本浩)

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