おわりに 日本が知っておくべきこと

最後に、日本にとっての含意を四点にまとめたい。

第一に、米国を影響工作の能動的な主体として認識し、対策を持つ必要性だ。同盟国だから安全だ、という前提はもはや成り立たない。

米国の失敗の系譜には、2024年にロイター通信が暴いた反ワクチン工作――2020〜21年にペンタゴンが、中国製ワクチンの信用を落とすため、同盟国フィリピンなどで接種をためらわせる偽情報を流した作戦――まで含まれる。

敵対国の影響力を削ぐために、同盟国の国民の健康を危険にさらす工作を、米国は現に行ってきた。

第二に、米国の失敗を反面教師とすることだ。

日本は、この分野で米国とイスラエルの手法を取り入れてきた。日本の新聞社は以前から両国の分析ツールを導入しており、その意味で両国を手本としてきたといってよい。だが、その手本とすべき相手こそ失敗の常習犯である。

米国の影響工作は請負業者への外注を構造とし、米中央軍(CENTCOM)が関与したとされるアンハード・ボイスは、ロシアなどが用いてきた手口をなぞりながら暴露された。筆者の見るところ、これは請負業者の質の低下を映す失敗である。

もう一方のイスラエルもまた、政府や軍の影響工作を世界中で請け負う代行産業を抱えながら、自国の作戦を繰り返し暴露・失敗させてきた。2021年のガザ紛争では軍みずからが秘密工作を「誤り」と認め、その工作は不発に終わった。

2024年には米国の世論を狙った工作がメタとオープンAI(OpenAI)に削除された。失敗を重ねる相手は、お手本ではなく反面教師である。

第三に、より根の深い問題として、対米依存の深さがある。

日本は社会経済の広い範囲で米国のサービスに依存しているだけでなく、デジタル主権(国家が自律的に意思決定し活動するために、データ、運用、技術を自国で制御できること)の面でも、SNS、クラウド、生成AIを全面的に米国に依存している。

自国民の世界観や判断基準の土台となるインフラを、能動的な影響工作を行っている国に預けている。これは、いつでもデジタル植民地になりうる状態にほかならない。

そして第四に、日本自身の構造的な脆弱性がある。

日本はようやく能動的サイバー防御(攻撃の兆候を事前に探知し、未然に無害化する防御の考え方)や認知戦に取り組み始めたが、国内と国外の対処は所管が分かれ、領域を横断する脅威を統合的に捉える体制を欠いている。

何より、判断の前提となる価値観と情報インフラを他国に握られていては、対策の土台そのものが崩れる。

米国の失策は、対岸の火事ではない。基盤を持たず、透明性と質を欠いたまま認知戦に臨めば、抑止どころか主導権を相手に明け渡す自滅を招く。その教訓を学ぶべき国は、ほかならぬ日本である。

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