3. 自壊する「守り」 認知戦対応組織の解体
より深刻なのは「守り」の崩壊である。米国は、民主主義国の制約ゆえに攻めには限界があっても、外国の影響工作を分析し対処する守りには多くの予算と人員を注ぎ込んできた。その守りを、第2次トランプ政権(2025年1月発足)が急速に解体している。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎が新領域安全保障研究所(INODS)に寄稿した分析によれば、米国の認知戦対応組織は相次いで姿を消した。
国務省で外国プロパガンダ対策を担ったグローバル・エンゲージメント・センター(GEC)は2024年12月に権限が失効して閉鎖、その後継部局である外国情報操作干渉対策部(R/FIMI)は2025年4月16日に廃止された。
FBIが2016年大統領選へのロシア干渉を受けて2017年に設けた外国影響対策タスクフォース(FITF)も、2025年2月5日に廃止されている。選挙干渉と世論分断を防ぐ中核が、半年あまりで消えたことになる。
対照的なのは、CIAのサイバーインテリジェンス・センター(CCI)が2025年10月に独立機関へ昇格したことだ。
攻撃的な能力は残し、防御的な対策部門は削る――この非対称が、いまの米国の姿である。黒井は、恣意的な人事と優秀なスタッフの大量離職、予算の恣意的な変更によって、米国のインテリジェンス能力そのものが弱体化していると指摘する。
この衰退は、データにも表れている。
仮創研(LLMによる思考実験・調査分析を行っている組織)が構築した認知戦レポート統合メタデータセット(世界の認知戦や影響工作の報告書672件を体系評価したもの)で、米国の機関が発表した報告書数の時系列変化を追ってみると、2023年の132件をピークに、2024年は104件、2025年は73件、2026年は6月時点で28件(暫定)へと急減している。
政府機関の廃止だけでなく、シンクタンクや大学を含む研究と対策のエコシステム全体が縮んでいるのだ。皮肉なことに、アンハード・ボイスを暴いたスタンフォードの観測所自身も、2024年に政治的圧力と訴訟のなかで大幅に縮小された。