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[東京 11日 ロイター] - 現預金の保有理由や活用状況の説明を求めるコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂を受け、投資家の間で日本企業の手元資金活用への期待が高まっている。約280兆円に上る資金を株主還元や成長投資に充てるよう求める声がアクティビスト投資家などから上がる一方、企業の間では慎重論も根強い。強制力を伴わない指針で行動は変わらないとの指摘も一部で出ている。
<説明責任>
「資本の活用方法について市場との対話が求められている」。工具メーカーのマキタの総務部総務課でインベスター・リレーションズ(IR)を担当する丸山亮太主任は、4月に公表した資本配分方針についてこう語る。同社は2026―30年度の累計営業キャッシュフローと手元現金の配分計画を初めて開示。現金および現金同等物の保有額を売上高の2―3カ月分に抑え、それを超える資金は株主還元や投資に活用する方針を示した。
マキタはさらに、配当性向50%以上の方針を新たに打ち出し、稼いだ現金を株主や成長投資に振り向ける姿勢を鮮明にしている。丸山氏は、こうした開示について東証によるガバナンス・コードの要請や機関投資家の要望を踏まえたものだと説明する。
今夏にも正式決定される見通しのコード改訂案では、企業に対し、現預金等の金融資産や不動産などの経営資源が成長投資等に有効活用されているかについて、取締役会で不断に検証し、その状況を説明することを求めている。資本効率や資金配分を巡る企業の説明責任は、これまで以上に重みを増す。
<高まる資本活用圧力>
英投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズの日本調査責任者、坂井一成氏は、日本企業では依然として資本配分に関する実質的な議論が十分に行われていないと話す。「現金を保有するか投資するかという単純な二元論ではなく、戦略的な資本配分が求められる」と強調する。
財務省の法人企業統計によると、企業(金融・保険業を除く全産業)の現預金保有額は26年1月末で279兆5197億円に上る。CLSA証券のストラテジスト、ニコラス・スミス氏は「企業はより積極的になる必要があり、過剰な現金を抱え込むことはもはや容認されない」という。
多くの投資家は、企業が余剰資金を株主還元やM&A(合併・買収)に振り向けることを期待する。マソ・キャピタルのパートナー兼共同最高投資責任者マノージ・ジャイン氏は「日本企業が余剰現金の活用を模索する中で、戦略的意義があり、利益成長に寄与するM&A案件を検討するようになる」と述べた。
日本で存在感を増すアクティビスト投資家も、こうしたガバナンス改革を追い風に、企業への圧力を強めている。ロンドン拠点のアクティビスト投資家パリサー・キャピタルは4月、SMCに対する書簡で、今後2年間で総額6000億円規模の自社株買いを実施すべきと主張。「SMCは、日本のコーポレートガバナンス・コードの改訂に先立ち、余剰資金の規律ある活用においてリーダーシップを示すことになる」としている。
三井住友信託銀行のガバナンスコンサルティング部で法務・ガバナンスチーム長を務める須磨美月氏は、改定案が正式に決まれば、企業側の対応にも一段と動きが出てくるとみる。同部では、例年多数の上場会社の取締役・社外取締役等にインタビューを実施。須磨氏は現預金をはじめとする資本配分について「これまで十分に議論した経験がないと指摘する企業も少なくなかったが、最近では、こうしたテーマを取締役会の議題とし、議論していく必要があるといった意見が出てきている」という。
<根強い慎重論>
もっとも、企業は不確実性にも直面している。中東情勢の緊迫化による混乱が続く中、供給網の混乱やエネルギー価格上昇が企業活動に影響を及ぼしているためだ。
TOTOは4月の決算説明会で、不透明感を理由に投資や自社株買いのために現金活用を進める計画を先送りすると明らかにした。田村信也社長は「自己資本比率が高すぎると自覚している」とした上で、「この先どうなるか分からないこともあり、手元に(現金を)置いて、何かあった時に機動性を持って資金投入できるようにしておく」と説明した。
企業の間では、現預金の増加について単純な削減ありきではなく、各社の経営判断を尊重すべきとの見方も強い。ロイターが5月に実施した企業調査で、増える現預金についての評価を聞いたところ、「個別企業の判断を尊重すべき」が回答した220社中6割を占め最多だった。企業からは「改訂案は経営資源が適切な水準になっているかを確認・説明すべきということであり、現預金の増減自体を評価対象とすべきではない」(窯業)との声も出ている。
CLSAのスミス氏は「道義的説得やソフトロー(法的拘束力のない規範)だけでできることには限界がある」と指摘した。