「自社には関係ない」という心理的バイアスも

さらに近年は、SNSや動画コンテンツを根拠に安全性を判断するケースも見られ、情報リテラシーの低下も懸念される。先のAIへの相談事例と同じく、手元で簡単に得られる「それらしい答え」に判断を委ねてしまう構図である。

しかし現実には、各国は自国の法制度や影響力を通じて企業活動に関与しうる。たとえば中国の国家情報法のように、国外にいる個人や企業にも協力義務が及びうると解釈される制度も存在する。こうしたリスクは公開情報として存在していても、「自社には関係ない」という心理的バイアスによって過小評価されやすい。

さらに複雑なのは、グローバル投資における「国籍」や「属性」の曖昧さだ。近年のファンドは多国籍化が進み、投資家構成も不透明であることが多い。表面的に「どの国の企業か」を判断すること自体が難しくなっており、単純なラベリングではリスク評価はできない。重要なのは、資本の流れ、意思決定構造、そして背後にあるインセンティブを立体的に把握することだ。

では、企業はどう対応すべきか。結論はシンプルである。公開情報やAI分析に依存するだけでなく、専門的な企業インテリジェンスの機能を活用し、「人を通じた情報取得」を組み合わせることだ。具体的には、現地事情に精通した専門家の関与、関係者への多面的なヒアリング、非公開情報の裏取りといったプロセスが不可欠になる。

AIは強力なツールであり、今後も企業活動の中心であり続ける。しかし、最終的なリスク判断を左右するのは、人間の行動と意思である。そしてそれを理解するための情報は、依然として人間からしか得られない。冒頭のベネズエラやイランの作戦が示すように、また家庭内のトラブルにAIが十分な答えを出せなかったように、最後にものを言うのは「人」なのだ。

効率化の時代だからこそ、非効率に見える「人に会う」「話を聞く」という行為の価値が再評価されるべき段階に来ている。

 
山﨑卓馬・クロール日本支社長

山﨑卓馬

クロール日本支社長
世界最大のインテリジェンス調査会社クロールの日本支社長として、企業インテリジェンスやコンプライアンス、不正・係争調査に従事。これまでオリックス株式会社で東京とシンガポールでアジア地域の戦略投資を指揮し、スタートアップ企業運営の経験もある。国際的なM&AやPMIなどに関する深い知識と経験を持ち日本でも数少ない企業リスク管理と危機対応、企業インテリジェンスの専門家として活動している。クロールは1972年にニューヨークで創業、30カ国に6000人以上の専門家を有し、S&P500の半数が顧客。

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