Kentaro Sugiyama

[東京 19日 ロイター] - 2026年1─3月期の実質国内総生産(GDP)は市場予想を上回る高い伸びを示したが、中東危機の影響が本格化するのはこれからだ。企業部門でコスト増や供給制約がすでに始まっており、7─9月期以降は物価上昇と実質賃金の低下を通じて家計部門にも波及する負のスパイラルに陥りかねない構図だ。

政府は物価高の悪影響を抑制するため補正予算の検討を進めるが、過度な財政出動は金利上昇や円安を招き対策の効果を削ぎかねない。政策判断は景気下支えと市場安定の間で難しいバランスを迫られる。

1─3月期の実質GDPは、個人消費が5四半期連続、企業の設備投資が2四半期連続で増加するとともに、輸出の増加がプラスに寄与した。米国とイスラエルによるイラン攻撃が2月末だったこともあり、中東情勢の影響は十分に反映されなかった。

<生産停止、局所に発生>

そのため、中東情勢がフルに影響する4─6月期は伸びが鈍化するとの見方が広がっている。政府は原油やナフサの供給は全体として確保されていると説明しているが、不動産業や建築業の一部では、資材不足や価格高騰で案件の遅延や中止などもみられるようになってきたという。モノが作れない状況が局所的に発生し、住宅投資や設備投資の遅れなどを通じてGDPの下押し圧力となる可能性がある。

こうした企業部門への影響は4─6月期で収束するとは限らない。中東情勢の影響が長引けば、原油や石油化学製品の需給逼迫が年後半にかけても続く可能性がある。設備投資や住宅投資の先送りに加え、中小企業の収益や賃上げ余力にも影響が及び、景気全体の重しとなり得る。

内需の柱である個人消費はどうか。内閣府の景気ウォッチャー調査など消費関連マインド指標は足元で大きく落ち込んでいるが、5月の大型連休時の人出や実際の消費動向は比較的底堅かったとみられる。ガソリン補助金や賃上げ、株価など資産価格の上昇が下支えとなっており、日本総研の松田健太郎主任研究員は「マインドがやや反応し過ぎている面があるのではないか」と話す。

<家計に波及、政策効果も限定か>

転換点となり得るのが7─9月期だ。企業部門のコスト増が消費者物価の上昇を通じて家計にも波及するおそれがある。

日銀が15日に発表した4月の国内企業物価指数は前月比2.3%上昇と、3月から伸びを大幅に拡大した。​中東情勢の不安定化の影響で石油関連製品を中心に幅広い品目の‌価格が上昇した。通常、企業物価の上昇は流通段階を経て数カ月遅れて消費者物価に反映されてくる。

みずほ総合研究所の服部直樹チーフ日本経済エコノミストは、石油化学製品の値上げなどが「CPIに波及して実質賃金を押し下げるおそれがある」と指摘する。

政策対応にも難しさがある。高市早苗首相は夏場の電気・ガス料金支援などを念頭に補正予算編成の検討を指示した。市場では数兆円規模との見方が多いが、政治的な要請で規模を拡大しすぎれば、財政不安を背景とした長期金利の上昇や円安圧力を招くリスクもある。

政府の補助金は一定の緩衝材となるものの、個人消費に対する効果は限定的との見方もある。ガソリンや電気・ガス以外の広範な品目の価格上昇を軽減するのは難しい。賃上げによる所得改善が続いても、物価上昇がそれを上回れば実質的な購買力は損なわれる。

<危うい楽観前提シナリオ>

市場では夏場にもホルムズ海峡の通航が正常化に向かうシナリオを想定している向きが多いが、原油価格が高止まりしたり、供給も完全回復には時間を要したりする可能性がある。さらに中東危機が夏場以降に及べば、物価上昇の持続と供給制約の強まりが同時に進行しかねない。

アジアの原油需給逼迫が石油化学製品の供給停滞を招き、日本のサプライチェーンにも影響が波及する可能性もある。「作れない」状況が広がれば、需要があっても生産できないという制約が成長を抑制する。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は「物が足りなくなることによる経済活動の停滞や停止は、いつ何時どこで目詰まりが起きてしまうかというリスクが分からないだけに怖い。何か起きた時のショックは大きい」と話す。

日本経済は賃上げや補助金、資産効果に支えられ、表面上は安定しているが、原油高の影響が時間差で広がるなか、日本経済の耐久力が問われる局面に入りつつある。

(杉山健太郎 編集:橋本浩)

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