Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 18日 ロイター] - 高市早苗首相は18日昼に開いた政府与党連絡会議で、中東情勢を念頭に置いた物価高騰に対応するため、2026年度補正予算の編成を含めた対策の検討を正式に指示した。政府内では今後、いま開かれている特別国会期間中の編成に向け、規模や財源について本格的な検討が始まる。政府関係者はロイターの取材に、財源には特例公債(赤字国債)の新規発行が含まれることになるとの認識を示し、市場への影響と財政不安を口にした。すでに長期金利が急上昇しており、日本財政への懸念は一層高まっている。
<「財源には赤字国債を含むことになる」>
「政府としてはリスクの最小化の観点から万全の備えを取るべく、補正予算の編成を含め、資金面の手当てを検討するよう連休前には事務方に対して、先週には財務大臣に指示をした」。会議の冒頭、高市氏はこう述べた。出席した政府・与党幹部に対し、補正の編成への理解と国会審議への協力を要請したものだ。電気・ガス代の補助を7─9月使用分について実施する考えも正式に表明した。
米・イスラエルのイラン攻撃による中東情勢の混迷で原油価格は上昇している。すでに政府内では補正の規模や財源について水面下の検討が進んでいたが、政府関係者は「財源には赤字国債を含むことになる」とも述べている。規模については未定としたが、電気・ガス代補助に加えてガソリン補助の継続となれば、財源が早期に底をつくのは自明だ。補正にはこうした各種補助に必要な財源を盛り込むことになる見通しだ。
<「足りないことに高市氏が気づいた」>
高市氏はこれまで、補正の編成について後ろ向きだった。国会では「編成が直ちに必要な状況とは考えていない」との答弁を繰り返し、国民に対して通常通りの生活を続けるよう呼びかけたこともあった。その心中について、前出とは別の政府関係者は「節約や補正が必要となれば、これまでの自身の答弁と食い違う。経済を冷やすことにもなりかねない、と考えていたようだ」と解説した。
ではなぜ、高市氏は補正容認に舵を切ったのか。複数の関係者は、物価高対策に使える予備費が前年度分を合わせても2兆円ほどしかない点を当初から危惧していた。ガソリン補助に月2000─3000億円、電気・ガス代の補助が始まればそれだけで月5000億円ほどが追加で必要になる可能性がある。「とても足りないことに高市氏が気づいたということだ」と、関係者の1人は述べた。
農林中金総合研究所の理事研究員・南武志氏は高市氏が補正編成に傾いたことについて「中東情勢という不測の事態が発生したため仕方のないことだ」と理解を示す。すでに債券市場では補正の可能性や日銀の利上げを織り込む動きがみられていたと指摘する一方、「金利は上昇傾向にあるが、長短スプレッドが急激に拡大しているわけではない。債券市場は日本の財政破綻を現時点で懸念しているわけではないだろう」と話した。
<「運用部ショックのようになりかねない」>
ただ、政府内には危機感が広がる。前出の関係者の1人は、補正を組むことになる6─7月にかけ、消費減税の方向性や、高市氏が注力する重点投資分野の具体化が重なるタイミングである点に触れ、「市場は政府内が制御不能に陥っていると感じるだろう」と指摘。「金利がどこまで跳ねるか。(1998─99年にかけての)運用部ショックのようになりかねない」と警鐘を鳴らす。
農林中金の南氏も「いまのところ金利が上昇していてもAI(人工知能)関連株の需要などがあり株式市場は堅調。政権への影響はあまり想定しにくい」としつつ、「金利上昇で株価の本格的な下落が始まるなどトリプル安の可能性が高まれば、政権への批判につながる可能性がある」と述べている。
前出の関係者は、本来であれば補正編成のタイミングでガソリン補助額の見直しなど、持続可能な制度設計を検討するべきだ、との見方を示した上で、こう付け加えた。「最後はマーケットがどう判断するかにかかっている」
補正の規模に関して、SBI証券のチーフ債券ストラテジスト・ 道家映二氏は「国民民主党が主張している3兆円が叩き台になりそう。個人的には4─5兆円ではないかとみている」と述べた。予備費を積み増すだけの補正になると野党の協力は得られないだろうとした上で、少数与党である参院で野党側の協力を取り付けるため、「結果的にあれもこれもと盛り込む形での編成になるのでは」とも予測した。
足元の金利状況については「日本財政に対する懸念によるリスク管理からの金利上昇だ」とした上で、「この状況で日銀が利上げをしたら債券市場は爆発してしまう。日銀は6月以降もう利上げはできなくなった」と言い切った。
18日の現物債市場では、新発10年国債利回り(長期金利)が一時10.0ベーシスポイント(bp)上昇の2.800%と、1996年10月以来29年半ぶりの高水準を付けた。
(鬼原民幸、竹本能文 グラフィック作成:田中志保 編集:橋本浩)