Alun John Dhara Ranasinghe

[ロンドン 15日 ロイター] - 世界の市場でリスクセンチメントが変動する中、低金利の通貨を売って高金利の主要通貨を買う「キャリートレード」が、ここ数年で最高のパフォーマンスを見せている。低いボラティリティー、世界的に金利がゼロ近傍だったコロナ禍の時とは違い先進国間で大きな金利差が見られること、円がイラン紛争を受けた安全資産選好の恩恵を受けていないことが背景だ。

主要10カ国(G10)の通貨で、最も金利が高い5通貨をレバレッジをかけずに買い、最も低い5通貨を売った場合、年初来のリターンは4%強になるとシティは試算する。FXクオンツ投資家ソリューション責任者、クリスチャン・カシコフ氏は「世界金融危機以降、(先進国市場のキャリートレードは)利益を生んでこなかったが、今回の状況は異例だ」と述べ、今年の不確実性やセンチメントの変化は注目に値すると指摘した。

<金利差が復活>

キャリートレードはヘッジファンドなど幅広い投資家に人気がある。

G10の状況を見ると、利上げ局面にあるオーストラリアとノルウェーの政策金利は4%を超えている。英国はそれをわずかに下回り、日本は1%未満、スイスは0%だ。

今年に入り対米ドルで豪ドルは約9%、ノルウェークローネは10%上昇。英ポンドも1%上昇。円はエネルギー高の影響もあって下落している。

モルガン・スタンレーは、ポンドについて、対ドルでは安定した動きを予想するが、キャリートレードにおいては豪ドルやノルウェークローネとの競争が激化していると指摘した。

ユーリゾンSLJアセットマネジメントの最高経営責任者(CEO)兼共同最高投資責任者(CIO)、スティーブン・ジェン氏は、米国に比べて日本と中国の金利が低いことを指摘し、「FXのキャリートレードは人気がある。短期トレーダーだけでなく、ロングオンリーの投資家や企業の財務担当者が利益を得るのに十分なほど利回り差が開いている」と述べた。自身のポジションについてのコメントは控えた。

RBCブルーベイアセットマネジメントのシニアポートフォリオマネジャー、カスパー・ヘンセ氏は、豪ドルとノルウェークローネをロング(買い持ち)にしていると述べた。ただ、それはコモディティー(商品)の輸出国で、原材料価格上昇から恩恵を受けているからだと説明した。

<低いボラティリティー>

キャリートレードの好パフォーマンスの背景には、イラン紛争でエネルギー価格が高騰、国債が下落しても為替市場は比較的落ち着いていることがある。

為替相場が大きく変動する局面では、金利差による収益が帳消しになる恐れがあり、キャリートレードには向かない。2024年夏の「日銀ショック」は円急騰、株急落をもたらし投資家は大損した。

現在は、ハイテク主導の株高が株式と為替のボラティリティーを抑制する一助となっている。

最も取引が多いユーロ/ドルの3カ月ボラティリティーは3月に7.8%まで上昇したが足元は約5.6%。利上げ局面だった22年6月は12%を超え、25年4月の関税ショック時は9%を上回っていた。

ドル/円のボラティリティーも低い。最近の日本当局による為替介入で円は上昇したが、トレーダーはこれをより高い水準で円を売る機会として利用したため、キャリートレードにさほど打撃を与えなかった。

シティのカシコフ氏は、3月にリスク回避の動きが急激に高まった局面でも円キャリートレードがほとんど無傷だったことについて、円が安全資産としての特性を失ったことを意味すると述べた。

<ヘッジ要因>

G10通貨の中で、円とスイスフランは長らくキャリートレードの調達通貨となってきたが、高金利通貨は事情が複雑だ。

たとえば豪ドル。高金利通貨ではあるが、押し上げ要因は伝統的な意味でのキャリートレードではないとUBSのFXストラテジスト、アルビセ・マリノ氏は指摘する。「文字通り2通貨間の金利差を稼ごうとしている投資家は、ブラジルレアルや南アフリカランドのような通貨を買うだろう」という。

同氏によれば、G10の金利差は、米国資産を保有するオーストラリアの投資家が米ドル安のリスクをヘッジすることでプラスのリターンを得られるようになったことを意味する。したがって投資家がヘッジを行う可能性が高まり、豪ドルへの資金流入につながっている。

実際、オーストラリアの年金基金は最近、ヘッジ比率を引き上げている。「これはわれわれが通常考えているものとは異なるタイプのキャリートレードだ」と同氏は語った。

米国株が上昇する中、市場でドル安がコンセンサスになっていることを考えるとヘッジは重要となる。

ソシエテ・ジェネラルのチーフFXストラテジスト、キット・ジャックス氏は「米国資産を保有する外国人投資家にとっての課題は、為替エクスポージャーをヘッジするコストだ」と指摘。ノルウェークローネと豪ドルを挙げ、「国内金利のおかげでヘッジコストが最も低い通貨が好調なのは驚くことではない」と述べた。

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