Ju-min Park Eduardo Baptista Brenda Goh
[北京/ソウル 12日 ロイター] - 北朝鮮の国民は長年、飢饉(ききん)や核戦争など多くの不安を抱えてきたが、平壌の新興富裕層は現在、もっと身近な悩みに直面している。駐車スペースの確保だ。
北朝鮮を最近訪れた人々の証言やロイターが分析した衛星画像によると、平壌では乗用車が急増し、初めて交通渋滞が発生。車両の急増に対応するため、新たな駐車場や電気自動車(EV)用充電インフラの整備が必要になっている実態が浮かび上がった。
世界で最も厳しい水準の制裁を受け、経済発展が遅れた国で車文化が花開いていること自体、十分に衝撃的だ。しかし、その兆候はいたるところに見られる。平壌の幾つかのホテルは駐車場が満杯で、自動車が隣接する通りにまであふれ出している。ボウリング場や、郊外の大きな生鮮品市場も車両に囲まれている。金正恩朝鮮労働党総書記は4月、自動車サービスセンターを訪れ、シルバーの布で車種が覆い隠された様々な車両を視察した。
国連の制裁により北朝鮮への自動車輸出は禁止されているため、自動車売買は公式統計に直接現れない。しかし中国の税関データによると、タイヤ、バックミラー、潤滑油といった関連品の出荷が急増しており、北朝鮮のドライバー人口が増えていることが分かる。
北朝鮮が過去2年間、個人の自動車所有を認める法改正を行ったことがブームの背景にある。個人は免許を取得すれば、国家認定ディーラーを通じて1世帯につき自動車を1台購入できるようになった。アナリストによると、車の所有はまだ主としてエリート層や「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興実業家層に限られている。
ロイターの記者らは数十枚の衛星画像や交通量の増加、外車が走る様子をとらえたSNS投稿を検証するとともに、実業家や外交官、最近北朝鮮を訪れた人々を含む10人以上の関係者に取材した。
韓国ソウルの民間シンクタンク、世宗研究所のピーター・ウォード研究員は、北朝鮮の自動車政策について、民間の経済活動を国家の管理下に置く広範な戦略の一環だと解説。金氏が個人の自動車所有を許可したのは、国営のディーラーやサービス拠点、国営ガソリンスタンドを使わせて、消費を国営企業に誘導するのが目的だと述べた。
「つまり消費を刺激すると同時に、かつて急成長していた闇市場での取引を正規化する措置だ」という。
自動車熱は平壌の街並みを変えるだけではなく、北朝鮮の中国依存を深めていると一部アナリストは指摘する。中国は北朝鮮の主要貿易相手国で、大半の車両を提供している。
中国外務省はロイターに対し、中朝は友好国であり正常な貿易交流を維持していると説明。北朝鮮への中国製車両の流入には直接言及しなかったが、企業に対し法令順守の取引を求めていると述べた。
北京の北朝鮮大使館および国連代表部は、自動車急増に関する質問に回答しなかった。
<黄色のナンバープレート>
平壌のナンバープレートはこれまで、国または軍の所有を示す青か黒だった。しかし、最近は個人所有を示す黄色いプレートがあふれているという。
北朝鮮に特化したインスタグラム・アカウントを運営するシンガポールの写真家、アラム・パン氏は昨年10月、20回目となる訪朝の際、平壌で交通渋滞に巻き込まれて驚いた。
「主要道路は、単純に車の数が多すぎるために渋滞ができている。黄色いプレートの車を間違いなく100台以上見た」と語り、大半は中国ブランドだったと付け加えた。
北朝鮮を定期的に訪れる外国人実業家は、平壌中心部での駐車が困難になっており、料金を徴収する非公式の駐車スペースが多く見られると述べた。
この実業家とある外交官によると、EVのインフラはまだ限られているが、電動タクシー用の充電スタンドが姿を現し始めている。
自家用車の台数はまだ不明だ。しかし、最近では5桁のナンバープレートが登場している。ロイターが検証したSNS画像には、1万番台の黄色いプレートが映っていた。
ソウルの韓国平和経済研究所のチョン・チャンヒョン所長は、北朝鮮の自家用車は来年2万台を超える可能性があると予測した。
<中国国境から密輸>
北朝鮮の核・ミサイル計画に対する国連制裁により、2017年12月以降、北朝鮮への自動車供給は禁止されている。公式の中国税関データによると、北朝鮮への自動車輸出は17年に3200台を超えていたのが、昨年はわずか2台だった。
しかし、中国からの自動車関連商品の輸出は、コロナ禍前の水準から急増している。昨年の乗用車用新品タイヤの出荷数は約19万3000本で、コロナ禍前の平均から88%増加。バックミラーの輸出は約4倍に増え、潤滑油やグリースの出荷は150%以上増えた。
多くの情報筋の話では、車両は中国国境沿いの非公式なルートを通じて北朝鮮に流入し続けている。中国側がここ数カ月、密輸の取り締まりを強化しているにもかかわらずだ。
中国東北部・吉林省の中古車ディーラー、ルー・ミン氏は、北朝鮮向けの車両は国境を越える前に何度も転売され、最終的な搬入は少数の経験豊富な密輸業者が担っていると明かした。自分が売った車の一部は北朝鮮に渡ったが、輸入業者と直接取引はしていないという。
24年末から26年初めにかけて平壌の住民や訪問者がソーシャルメディアに投稿した動画や写真には、サービスセンターや市街地を走る外国ブランド車が映っており、中国の長安汽車、奇瑞汽車(チェリー)、吉利汽車(ジーリー)のほか、BMWやアウディなど欧州ブランドも含まれていた。
韓国政府系シンクタンク、統一研究院のチョン・ウンイ研究員が国境地域のトレーダーから得た情報では、価格は新車か中古車か、ガソリン車かEVかを問わず、5000ドルから3万ドルの範囲だ。
前出の外国人実業家は「こんなに道路が混雑するとは異常だ。黄色いプレートがあふれかえっている」と驚きを口にした。