「真理をつかむことが科学の本質」と若者に伝えたい
茜 先生はノーベル賞受賞直後の2017年に、基礎科学研究者の育成や研究支援を行う大隅基礎科学創成財団を立ち上げました。
毎年、公募選考で10数件の研究に助成をしていて、今年はもう10期目になります。ここまで続けることには様々なご苦労があったと思いますが、続けられた原動力は何ですか。
大隅 「『役に立つからやる』からいったん離れよう。真理をつかむことが科学の本質だ」ということ広く世の中に、とくに今の若者に言いたいというのが、財団を作ったモチベーションです。そして、これは未だに解決できていない問題でもあるので、言い続けることが私の役割だと思っています。
科学研究は役に立つだけでなく、「人間が知的財産をどれだけ獲得するか」という面も重要だということに着目してほしいです。
茜 財団の原資は先生のノーベル賞の賞金(約1億円)だそうですね。大変下世話な話で恐縮ですが、奥様に「そのお金で旅行に行きたかったわ」などとは言われませんでしたか?
(筆者注:大隅教授の妻・萬里子さんは生物学者で、オートファジー研究にも共同研究者として多大な貢献をした。萬里子さんが基礎科学支援に理解が深いことを知ったうえでのジョークだ)
大隅 ははは、全財産を財団に捧げたというわけではありませんから。自分の賞金を使って、日本の基礎研究の置かれている状況を伝えながら活動していくことで、企業からの資金援助も受けられたり、社会的な理解も得られたりするものだと思っています。
公募の選考基準は「独創性」
茜 大隅先生は企業への支援の呼びかけもご自身で行っているそうですね。
大隅 「基礎科学研究への助成」という、言うは易しいけど、なかなか難しい問題をこれまで10年、今年でようやく10年、行ってこれました。10年間で財団の資金も少しずつ、存在感も少しずつ増してきました。
茜 大隅基礎科学創成財団の公募の選考では、「役に立つ」ことは問われず、独創性があることがもっとも重視されます。
ちょうどタイムリー(※5/22まで支援を募集)ですが、今年からクラウドファンディングも行っているんですね。「デンキウナギの発電機構の解明」と「植物のしなやかな生存戦略に学ぶ」という2つの公募研究が対象となっています。
デンキウナギの研究では「自然界ではデンキウナギの強力な電気が近くの生物の細胞膜に穴をあけ、他者の遺伝子を獲得するきっかけになったのではないか」という壮大な仮説が展開されていたり、植物の研究では虫の嗅覚と味覚を手玉に取って忌避させる巧みな作戦が紹介され「戦わない生き方を植物に学ぼう」と語られていたりします。
これまでも個人からの寄付を募っていましたが、今、財団がクラウドファンディングにも踏み出したきっかけは何ですか。
大隅 社会的な問題にもなっていますけれど、昨今はジェネレーションギャップがとても大きいです。
私の世代は、戦後の貧しい時代から日本のサイエンスで復興してきた時代です。それから社会はずいぶんと変わって、私たちの主張はなかなか全世代に広がっていかないという問題を抱えていました。これは一般的なことのようですが、例えば50歳の人が支援を提唱すると、その人の賛同者というのは同世代の人を中心に正規分布するそうです。
これまでを振り返っても、私の主張は私の友人世代にはあたたかく迎えられるのですが、今の若い人にはダイレクトに伝わらないというもどかしさがありました。最近は、紙媒体だけでは見てくれる世代が限られるということもあります。