Tamiyuki Kihara
[東京 13日 ロイター] - 米中首脳会談が迫る中、日本や台湾を含む東アジアの当事者の間に様々な期待や懸念が広がっている。キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)上席研究員兼中国研究センター長の峯村健司氏は12日まで、米国や台湾を訪れ政府高官らと意見交換を重ねた。実に8年半ぶりとなるトランプ米大統領の訪中は、戦後国際秩序の中でどんな意味を持つのか。習近平国家主席の思惑とは。日本が取るべき対応を含め、峯村氏の分析を聞いた。
──米中首脳会談に臨むトランプ氏の思惑をどう見るか。
私はいま(日本時間12日)ニューヨークにいるが、直前までワシントンでトランプ政権の閣僚の側近らと意見交換をしてきた。トランプ氏としては貿易赤字の解消が今回の会談の最も大きな目的だ。とにかく貿易赤字は悪であり、それが米国内の製造業を壊し、雇用を奪ったのだと考えている。これは1期目の政権からまったくブレていないトランプ氏の主張だ。その赤字を一番もたらしているのは中国であり、対中赤字の解消はトランプ氏がずっと実現したかった政策と言える。
2017年、トランプ氏の初訪中では、中国企業による対米投資や米国製品の大量購入などが盛り込まれた総額約2500億ドル規模の商談がまとめられた。トランプ氏は当時とても喜んだが、中国はあまり合意を履行せず、米国内の対中強硬派の意見などもあり、結局貿易戦争が始まってしまったという経緯がある。
今回は同じ轍を踏まないよう、米国は中国との間で貿易委員会を立ち上げ、例えば農作物やボーイングの飛行機などを中国が着実に購入するという仕組みを整えることになる。トランプ氏は今回、現在の対中貿易赤字をいかに減らすかということしか考えていない。
その証左として、今回の米中首脳会談の事前準備を担っているのはベセント財務長官と通商代表部のグリア代表だ。安全保障担当者は入っていない。こうした点からも、トランプ氏がいかに経済に注力しているかが分かる。これは非常に危ない話だ。
──非常に危ないとは。
つまり、米中間の事前協議で台湾のことについて話し合っていないということだ。むしろ台湾についてはあまり持ち出さないようにしようというのが米側の思惑になっている。一方で、中国にとっては、米国から引き出したいもの、狙いは台湾だけと言っていい。
──それが中国の思惑だと。
習近平国家主席としては、事務方で事前にすり合わせをしていない中で、会談で直接トランプ氏から台湾について譲歩を引き出そうとしている。これは習氏も1期目から周到に準備してきたシナリオであり、成功させることに相当の自信を持っていると言っていい。要するに、台湾をカネで買うということだ。トランプ氏に対して、米国の農作物や製品をたくさん買うから、その代わりに台湾については譲歩しろと。
──譲歩とは具体的にどんな。
私は今回、米国に来る前に台湾に立ち寄り、頼清徳政権の高官らと議論した。彼らが今回の米中首脳会談で恐れていることが二つある。最も恐れているのは、トランプ氏があまり考えずに台湾について何らかの発言をし、中国側がそれを使って「米国が譲歩した」というキャンペーンをやることだ。もう一つが、台湾議会で可決された米国からの武器輸入について、実際に武器が来ない状態になること。そうなると、台湾は完全に米国に梯子を外された格好になってしまう。
また、中国にはもう一つの思惑がある。それは、今回はあまり結果を急がないということだ。今年は今回の会談を含めて最大4回(今回、習氏の訪米、アジア太平洋経済協力会議、主要20カ国・地域首脳会議)、習氏とトランプ氏が会談する機会がある。その4回でじっくりと妥協を引き出せばいいわけで、今回はとにかくトランプ氏を喜ばせるだけ喜ばせるというのが、中国側の策略でもある。だから、最上級のもてなしをするわけだ。
──イラン情勢はどういう位置づけになるか。
中国にとって最大のカードの一つがイランだ。中国はイランを単なる友好国ではなく、あくまで強力な対米カードとして見ている。おそらく今回の会談後、習氏はイランに圧力をかけて停戦合意に向けた説得に動くだろう。米国とイランの和平交渉が泥沼化する中、習氏が米国のために動くとなれば、トランプ氏にとってこんなにうれしいことはない。経済的利益とイランの説得でトランプ氏を喜ばせ、年末にかけて台湾という中国側の利益を「収穫」するというロジックだ。
1971年のキッシンジャー訪中以来、台湾は米中の密約の歴史をたどっている。今回もそれが繰り返される可能性があるし、米中双方が表向き発表していることを信用してはならない。仮に今回の会談で台湾について大きな合意がなかったという発表になったとしても、それを信用すると大変な痛い目に遭うということだ。
──日本はどう動くべきか。
私はずっと、今年は「戦後国際秩序の激動元年」だと言っている。その中で一番の修羅場になるのが東アジアであり、そのトリガーが今回の米中首脳会談になる。まさに「リンチピン(要石)」であり、米中関係を発端に世界中の秩序が崩れかねない。こうした状況で日本がすべきことは、米国に対し「習氏に騙されず、しっかり日米同盟に回帰するべきだ」と強く伝えることだ。「経済的な利益もイランの説得も中国による一時的な目くらましであり、習氏の狙いは戦後の国際秩序をひっくり返すことにある」と。
ただ、これはベセント氏に言っても意味は薄い。やはり、高市早苗首相が直接トランプ氏に電話をかけなければいけない。高市氏がこうした考えをトランプ氏に分かりやすく、3分間で伝えられるかどうかにかかっている。そうしなければ、日本が知らない間に台湾有事は現実のものとなるだろう。米国が軍事介入しないとなれば、中国は必ず動く。
(聞き手・鬼原民幸 編集:橋本浩)
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