Tamiyuki Kihara
[東京 13日 ロイター] - 米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が14─15日、北京で会談する。両首脳が直接向き合うのは昨年10月以来だ。日本政府内からは、米中の経済関係改善を望む声が上がる。中国によるレアアース(希土類)の対日輸出規制を打開する突破口になるとの期待もあるが、日本に有利なディールの実現には懐疑的な見方が根強い。台湾問題での米中接近を不安視する見方もある。
<「対日規制は別問題」>
「レアアースの輸出規制でブレイクスルー(突破口)があれば、と思っている」。日本政府関係者はロイターの取材にこう述べた。中国政府は1月、軍民両用(デュアルユース)品目の対日輸出規制を厳格化すると発表。レアアースの価格高騰や調達難が製造業を中心に日本経済に打撃を与えているとの懸念が背景にある。
米中首脳は昨年10月、韓国・慶州で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて韓国・釜山で会談し、関税や輸出規制などの貿易対立の緩和を約束した。同関係者はこの合意にも触れ、「米国は合意の完全履行を中国に迫るだろう。そうなれば、対日輸出規制にも変化が出てくる可能性がある」と期待感を示した。「今回の首脳会談はとにかく経済が主要テーマだ。日本にとっても良い結果となるよう米側に働きかけたい」とも語った。
ただ、政府内には悲観的な声もある。経済政策を担う省庁幹部は「米中間の経済課題と、中国にとっての対日規制は別問題だ」と語る。現下の日中関係の悪化が、台湾有事が日本の存立危機事態になり得るとした昨年11月の高市早苗首相の国会答弁に端を発している点を指摘し、「中国に規制緩和を求めるなら、日本としても何らかの譲歩をしなければならない」と説明。中国が高市氏に改めて発言撤回などを求めてくる可能性があるとの見方を示し、「高市氏がそれに応じるとは思えない」と話した。
<「問題は年末までの変化」>
台湾を含む安全保障問題についても、日本政府内には米中間の「想定外の接近」を危惧する声がある。前出の省庁幹部は、習氏からトランプ氏に台湾問題で「日本に自制を求めたい」などの発言が出た場合を念頭に、「米中会談後に東アジアの安全保障環境に変化が生まれることが、日本にとって最悪のシナリオだ」と危機感をあらわにした。
一方、別の政府関係者は、トランプ氏がイランと中国との関係に不信感を抱いているとの見方を提示。「中国がイランを支援しているという話もある中、トランプ氏が台湾問題で中国に有利な譲歩をするとは考えにくい」と語った。
むしろ、同関係者は習氏の訪米など年内にあと数回可能性があるとされる両首脳の直接会談を見据える。「中国としても米国との良好な関係を国内的にアピールしたいはずだ」と指摘。今秋の中間選挙を控えるトランプ氏も同様の考えを持っているとした上で、現時点では両国の利害は一致しており、「問題は年末までに再び訪れる会談のタイミングで両国が置かれた立場にどんな変化があるかだ」と述べた。
<専門家は「非常に危ない」>
首脳会談を前に日本政府内には期待と不安が渦巻くが、元米政府高官は12日、今回の会談で中国によるレアアースの対米輸出規制の停止措置は「延長されるだろう」と予測。「日本にとって最大の焦点は、その恩恵が日本企業にまで及ぶかどうかだ」と指摘した。
専門家は今回の会談をどう見ているのか。
キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)上席研究員兼中国研究センター長の峯村健司氏は、「トランプ氏としては貿易赤字の解消が今回の会談の最も大きな目的だ」と話す。トランプ氏は貿易赤字が米国内の製造業を壊し、雇用を奪ったと強く認識しており、その解消が何よりも優先されるとの見方だ。
一方、習氏にとっては台湾問題で米国の譲歩を引き出すことが最大の目的だと言う。米国が東アジアの安全保障ではなく経済を過度に重視して会談に臨もうとしている点を「非常に危ない」状況だと指摘した。
日本が取るべき対応について、峯村氏は「米国に対し『習氏に騙されず、しっかり日米同盟に回帰するべきだ』と強く伝えることだ」と強調。高市早苗首相が直接トランプ氏に電話をかけなければならないとした上で、現状を放置すれば「日本が知らない間に台湾有事は現実のものとなるだろう」と語った。
高市氏は12日、訪日中のベセント米財務長官と首相官邸で約15分間会談した。日本政府の発表によると、高市氏は会談の中で、日米の供給網(サプライチェーン)強靭化について連携していく必要性に言及。インド太平洋地域の諸課題も議題になり、べセント氏からは最近の米中関係について説明があったという。台湾問題が話題になったかは明らかになっていない。
同席した片山さつき財務相は終了後、記者団の取材に応じ「大変いいミーティングができた」と述べた。その上で、会談では米新興企業アンソロピックの新型AI(人工知能)「ミュトス」、重要鉱物、財政金融市場の話題が出たと説明した。
(鬼原民幸 取材協力:久保信博 編集:橋本浩)
※峯村氏のインタビュー詳細:首脳会談に向けた米中の思惑 「中国の狙いは台湾だけ」=CIGSの峯村氏