疾患リスクを下げる最も身近な予防医療
認知症との関連も注目されている。国立長寿医療研究センターの解析で、慢性歯周炎のある人は、ない人に比べて認知機能が明らかに低下していることが確認された。
歯周病菌が産生する炎症性物質が血液を通じて脳に到達し、神経細胞にダメージを与える可能性や、全身性の慢性炎症が神経変性を促進する可能性が指摘されている。
アルツハイマー病患者を対象に、欧米の複数機関で実施された歯周病菌の毒素を中和する薬の臨床試験では、歯周病菌感染が確認されていた患者のうち、薬を投与した群で認知機能の低下速度が30〜50%減少していた。歯周病菌と認知症の関係を探る研究は現在、各国で加速している。
歯周病が厄介なのは、初期段階では自覚症状がほとんどないことだ。歯茎の軽い腫れや出血は、加齢や体調のせいとして見過ごされがち。その間も炎症は持続し、静かに確実に体の回復力を削っていく。
こうした知見を踏まえれば、日々の口腔ケアの意味は大きく変わる。歯磨きやフロス、定期的な歯科受診は、単に歯を守る行為ではない。慢性炎症の「火種」を消し、心臓や脳を含む全身の疾患リスクを下げる最も身近な予防医療だ。
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