【鈴木】 インドは本当に独特な国です。インフラ面の課題に加え、連邦と州で異なる制度や規制の解釈、官僚主義や「組織」より「個人」が前に出やすい文化。日本的なチームプレーを前提に進出すると、思わぬところでつまずきます。一方で、モディ政権は米国ともロシアとも関係を保ち、中国とは緊張を抱えつつバランスを取るという、極めて柔軟な外交を展開しています。この複雑さそのものが、インドの地経学的な強みでもあります。
この「バランス外交」の国をハブに据えることは、日本企業にとって大きな挑戦です。ただ、インドで成功している企業には共通点があります。インドの空調市場で存在感を持つダイキン工業や、乗用車市場で約4割を占めるスズキ(マルチ・スズキ・インディア)は、現地で徹底的に鍛えられることをいといません。彼らが口をそろえて言うのは、「インドで通用する製品やコスト感覚を身につければ、アフリカや中東でも戦える」という点です。
インドを単なる市場と見るのか、それともグローバルな「地経学的ハブ」や「鍛錬の場」と位置づけるのか。その戦略眼が、今後の海外展開の明暗を分けるでしょう。

「不可欠性」を磨く、経済安全保障という戦略
【鈴木】 トランプ政権がグリーンランドに強い関心を示すのは、そこに戦略的資源が存在し、それが対中依存を克服する手段となり得るからです。今や、地経学と安全保障はコインの表裏です。そう考えれば、JBICのファイナンスも単なる経済支援ではなく、日本の経済安全保障を下支えする役割を担うべき存在です。
【菊池】 私たちも、その責任を強く意識しています。地経学リスクが安全保障と一体化する中で、JBICの役割は「社会課題解決」にとどまりません。優先度が上がっているのは、サプライチェーンの強靱化です。例えば、チリでの銅鉱山開発やブラジル国営石油会社との脱炭素案件への融資は、重要資源の確保につながります。また、半導体業界においても、日本企業の国際競争力の維持・向上に必要となる海外投資などを支援しています。いずれも、資源・技術・供給網という日本の脆弱性に直結する領域を意識したものです。
これからは、単に価値観が近い「同志国」であるだけでなく、「利益を共有できる関係かどうか」が問われます。ウズベキスタンの太陽光発電や、エクアドルの港湾コンテナクレーンへの融資は、電力不足や物流改善といった相手国の切実な課題に応えることで、「日本は不可欠なパートナーだ」と認識してもらう狙いがあります。地理的に離れていても、「日本がいないと困る」という存在になることが、結果的に日本の安全保障につながります。