【鈴木】 これほど地経学が注目されるのも、かつての「政治と経済の分離」というルールが崩壊したからです。以前は自然災害やテロといった「不可抗力のリスク」に対応すればよかったのですが、今は「ルールを無視した経済的威圧」が、政治の道具として戦略的に使われています。
自由貿易が進めば進むほど国際分業が発達し、各国は他国への依存度を高めました。平時であればリスクフリーな効率化ですが、ひとたび特定の国がその「独占的地位」を政治の道具として使うことに目覚めると、経済は「最強の武器」に変わります。WTOの紛争解決機能がまひしている現状では、経済大国がそのパワーを武器化する誘因がかつてないほど高まっているのです。これがルールに基づかない「エコノミック・ステイトクラフト(経済的手段による国益の追求)」の時代です。
「政冷経熱」モデルの終焉、調達先の多角化を長期スパンで
【菊池】 日本企業も、この変化に敏感に反応しています。象徴的なのが、対中感情の変化と投資先のシフトです。かつては「政冷経熱」という言葉があり、政治が悪くても経済は別物だという、ある種の楽観的な期待がありました。しかし、2010年に中国のGDPが日本を抜いたあたりから、その前提が成り立たなくなりました。政治が冷え込めば、経済もダイレクトに冷え込む。それが今の常態です。
JBICが毎年実施している企業アンケート調査「わが国企業の海外事業展開に関する調査報告(GLOBE)」を見ても、興味深い動きが表れています。以前は中国が圧倒的な人気を誇り、事業展開先有望国・地域ランキングでも長年1位か2位を占めていました。それが23年の調査では3位に後退し、さらに24年には過去最低の6位となりました。最新の25年調査では5位に戻したものの、日本企業の調達・販売先の多角化の傾向は、すでに定着しつつあります。
■事業展開先有望国・地域ランキング得票率の推移(2005~25年)

事業展開先有望国・地域ランキングは、回答企業に中期的(今後3年程度)に有望と考える事業展開先国名を最大5つ挙げてもらい順位にしたもの
直近では、北米、すなわちUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定、旧NAFTA)圏への関心が高まりました。バイデン前米政権の発足当初には、「メキシコ経由で再び自由貿易ができるのではないか」という期待が一時的に広がったためです。
しかし、25年のトランプ第2期政権の始動を経て、そうした見方は次第に後退しました。時間が経つにつれ、米国の人気が上昇する一方で、メキシコの人気が低下するという動きが見られています。その結果、米国本国への投資シフトがより鮮明になった形です。日本企業も米中対立の長期化を見据え、「かつての良い時代には戻らない」との認識を強め、より直接的に米国市場への投資に舵を切る傾向が表れています。