Takahiko Wada Kentaro Sugiyama

[東京 28日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は28日、金融政策決定会合後の会見で、先行き利上げする場合のシナリオを例示し、見通しの確度が高まったり、物価の上振れリスクが高まる中で経済の減速が限定的なら利上げすると述べた。次回利上げの時期は「予断を持っていない」とする一方で、市場が注目する6月会合での利上げの可能性を完全に排除することもしなかった。

今回公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、基調的な物価上昇率が2026年度後半から27年度にかけて物価安定の目標とおおむね整合的な水準となるという、これまでの中心的な見通しを維持した。

ただ、この中心見通しは中東情勢が緊迫化する中でもサプライチェーンの大きな混乱がなく、原油価格が今後下落していくことを前提にしたものだ。植田総裁は、足元で経済、物価ともに不確実性が高いことを踏まえると「こうした見通しが実現する確度は、これまでに比べれば低下している」と述べた。その上で、中心的な見通しの確度が再び高まってくるか、経済・物価を巡るリスクが変化していくかどうかといった点をもう少し確認したいと語った。

今回の決定会合は、賛成多数で金融政策の現状維持を決めたが、中川順子委員、高田創委員、田村直樹委員が利上げを提案して反対に回った。

植田総裁は、3人が反対したことは「議長として深刻に受け止めなければならない」と述べた一方、今回は一時的なサプライショックにはルックスルーが適切という考えに沿った判断となったと説明した。残りの6人は、物価上振れリスクを意識する一方で、直ちに利上げで対応するほどの緊急性はないと判断したとも述べた。植田総裁は、現時点で中長期のインフレ期待が大きく跳ね上がる展開にはなっていないとした。

<6月会合は>

今回利上げを見送ったことで、市場の関心は次回6月の決定会合で利上げするかに移っている。

植田総裁は、6月よりもう少し先のデータで今回の物価上昇圧力が表れる可能性が高いと指摘した。物価がもっと上がるリスクが高い場合、それを待たずに政策判断することはあり得ると指摘。ホルムズ海峡閉鎖中でも場合によっては利上げという判断もあり得るとした。物価の上振れリスクが顕在化してきた場合、もしくは、リスクが高まりつつある一方で「大きな景気調整が起こるリスクがある程度制限されている状況の場合には利上げに至る」と明言した。

植田総裁は、物価高が二次的波及を見せれば利上げが必要になると述べる一方で、「当面はヘッドラインのインフレ率は少し大きめに上昇するが、基調物価の上昇を直ちには意味しない」と指摘した。ただ、企業の賃金・価格設定行動が積極化しているもとで、期待インフレ率がはっきり上昇して基調物価が上振れるリスクに注意し、政策運営がビハインド・ザ・カーブ(後手に回る)に陥ることがないよう、様々なデータや情報を丁寧に点検しながら、次回以降の会合で適切に政策を判断していきたいと話した。

第一次オイルショックに見舞われた1970年代前半との違いについて、植田総裁は、70年代前半は経済が過熱し、物価も賃金もすでに高い上昇率だったところに原油価格の高騰が起きて事態が深刻化したが、今回の中東情勢の緊迫化の前には経済が過熱しているわけでもなく、物価上昇率2%、賃金上昇率は物価プラス生産性の上昇率を大きく超えて上昇しつつある状況ではなかったと指摘。「1970年代前半のような状況になる可能性はそれほど高くないと考えている」と述べた。ただ、「初期条件的な意味では、現実の政策金利が中立金利を下回っているので、その点は注意しつつ政策運営していきたい」と話した。

<次の利上げ、市場の見方は分かれる>

総裁会見を受け、市場では日銀の利上げ時期を巡って見解が分かれている。

野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジストは6月の利上げを予想する。植田総裁の会見は「タカ派的だった」と指摘。総裁が何度も「利上げ」と直接言及したことに加え、大きな景気の下振れがなければ利上げが可能と述べたことに注目している。

一方、SBI新生銀行の森翔太郎シニアエコノミストは、植田総裁の会見は「展望リポートほどタカ派トーンが示されなかった」とし、利上げは次の展望リポートを議論する7月会合が有力と予想する。

6月会合時点で公表される全国CPIは4月分までで「4月のインフレ率は2%に到達しない公算が大きい」とみているほか、利上げの前に「中東情勢の影響をアップデートしつつ、経済見通しを少なくとも潜在成長率並みに上方修正する必要があるのではないか」と指摘する。今回の展望リポートでは、26年度の実質GDPは前年度比0.5%増と潜在成長率を下回る見通しが示された。

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