李に対して韓国の保守系メディアからは、北朝鮮側からのドローン侵入が続く状況下でバランスを欠く、との批判も上がっている。しかし李の断固たる対応には理由がある。それは事件の構図が、尹による戒厳令宣布へと至る状況と類似しているからだ。
尹政権下では韓国軍による北朝鮮へのドローン侵入が組織的に行われていた。目的の1つは南北の緊張を激化させ、続く戒厳令宣布を正当化することだったといわれている。そして、戒厳令宣布に至るまでの過程に深く関与したのが、国家情報院や軍の情報司令部、特殊戦司令部だった。
問題は、なぜこの状況が現政権下で再現したか、である。背景にあるのは、現在の李政権による統制が、情報機関や軍の末端にまで行き届いていないという事情だ。北朝鮮への情報収集活動を担う情報機関や軍の諜報部隊は元来、保守的なイデオロギーが強く、尹による戒厳令を是とする人々も多い。そして何よりも李政権が進める、自らの所属機関への改革に対する抵抗が存在する。
韓国の情報機関や軍の諜報部隊と進歩派政権の間のぎくしゃくした関係は今に始まったものではなく、同様の現象は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権や文在寅(ムン・ジェイン)政権下でも見ることができた。その意味で李にとって今回の事件は、改めて情報機関や軍への統制の必要を感じさせるものであり、また絶好の機会と映っているはずだ。そしてこれらの勢力の排除は、北朝鮮にとっては自らへの脅威の低減を意味する。さらに、彼らが「敵国」と規定する韓国国内の左右両勢力の対立をあおることもできる。
こうして韓国の進歩派政権と北朝鮮の協力関係が成立する。李の支持率は高く、韓国の保守派は6月の統一地方選挙での苦戦も伝えられている。当面、南北の「同床異夢」は続きそうだ。