
戦時下の愛国心と痛み
ミュージカルが興隆した40年代以降、アメリカは戦争に関与し続けてきた。戦争を直接扱わない作品にも、戦時下の社会の空気は刻まれている。その最たる例が『オクラホマ!(Oklahoma!)』④である。
第2次大戦下の43年に初演を迎えた同作は、世紀転換期の準州オクラホマを舞台に、農家の娘ローリーとカウボーイの若者カーリーの恋を描き、古き良き過去へのノスタルジーを喚起する。
2人の恋の成就は、農家とカウボーイの対立の克服、さらに準州が州へ昇格し合衆国へ組み込まれる過程と重ねられる。個人もグループも州も、より大きな単位に包摂されて幸福に至るというメッセージは、戦時下の愛国心を慰撫しただろう。一方で同作は、異分子の排除も描く。共同体で気味悪がられている農場労働者ジャッドの孤独は、ミュージカルの表現手法においても示される。
カーリーとローリーはデュエットで心を通わせ、共同体は結束を合唱し、合衆国の一部となった喜びを歌で表現するが、ジャッドが歌で心を通わせる機会はない。誰が共同体に迎え入れられ、誰が排除されるのか、同作には明確な線が引かれている。
そこには、軍内の人種間格差や敵性国にルーツを持つ市民の強制収容といった当時のアメリカ社会の論理が透けて見える。ミュージカルは、時代の価値観を映す鏡なのだ。
※後編はこちら:リンカーン暗殺犯だって「舞台で歌う」?...政治的なミュージカルに響く「共鳴と不協和音」
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