「ミュージカル」というと日本では「突然歌い出す不自然なエンタメ」「感情表現が大げさでストーリーが大味」など、非現実的で近寄り難いといったイメージを思い浮かべる人も多いかもしれない。

だが発祥の地アメリカでは、社会の動向とミュージカルは切っても切り離せない。オペラから派生して娯楽要素が強まった欧州のオペレッタや、アメリカ発のミンストレル・ショーなど、さまざまな要素が合流しながら、ミュージカルはアメリカ文化の大きな流れをつくっている。

広範な観客をターゲットとする娯楽である分、テーマ性や芸術性が希薄と見られがちな一方で、大衆向けであるが故に、その時々の社会の問題や人々の夢、欲望、恐怖を作品の中に刻んできた。その意味で、ミュージカルはポリティカルなのだ。

『ウィキッド』でも、肌の色による差別、異種族から言葉を奪う暴力、権力者の目くらましによる扇動といった、現実に通じる問題が描かれる。

舞台版初演の03年といえば、9.11テロ後の軍事行動で愛国・排外の空気が強まった時期。エルファバを「悪い魔女」だと決め付けて追い込む差別や暴力は、当時のアメリカ社会の状況と鏡写しだ。

アメリカン・ミュージカルは、自分たちが何者か、どのような世界に生きているかを映し出す。その性格は、20世紀初頭以来変わっていない。時代と社会が舞台に映し出された、ポリティカルなミュージカル10作品を紹介しよう。

『ショー・ボート』が切り込んだ「人種差別」