建国以来維持されてきた徴兵制に基づく「人民軍」の発想も、この心理を補強する。前線の兵士だけでなく、兵器産業や後方支援までが一丸となる体制は、国家存続への危機感を日常化させる装置になっている。弾薬不足が指摘されるなか、退職した技術者らが現場復帰する動きも見られるほどだ。
イランはイスラエルに比べて圧倒的な地理的規模を持つ。その存在感は建国直後に周辺諸国から一斉攻撃を受けたイスラエルの記憶を想起させる。これはイスラエル人にとって、論理だけでは説明できない恐怖心なのだ。
このイスラエルの社会状況を政治的に束ね、イランの脅威をあおり続けてきたのが「ミスター・イラン」の異名を持つ首相のベンヤミン・ネタニヤフだ。
ネタニヤフという政治家の評価が二分されるイスラエル社会にあっても、7割超が対イラン戦争を評価し、同氏を強く批判する左派層でも4割がネタニヤフの作戦指揮を支持する。
今回のエスカレーションは一方的ではないにせよ、イスラエルの選択が引き金の原因である側面は紛れもない事実だ。
オバマ政権下で成立したイラン核合意(JCPOA)は、ウラン濃縮抑制に一定の成果を上げていたが、イスラエルは期限や不十分さを批判。そしてネタニヤフはトランプを説得し、2018年にアメリカを核合意から一方的に離脱させた。
その結果、イランは濃縮活動を再開し、現在問題視される60%の高濃縮ウランの蓄積に至った経緯がある。