<スポーツ医師による性的虐待を150人以上の女子選手が告発。メディアと世間は、なぜ長期間この疑惑を無視してきたのか>

ラリー・ナサー (54)は約30年間にわたって米体操協会に所属し、チームドクターとして4回の五輪にも帯同したスポーツ医師。そのナサーが五輪の女子代表選手や勤務先のミシガン州立大学の選手らに対して長年、性的虐待を繰り返してきた実態が明らかになりつつある。

1月半ばにミシガン州の裁判所で始まった裁判では、7日間にわたって150人以上の被害者が次々と証言台に立ち、ナサーがけがの治療だと偽ってみだらな行為を行ってきた実態を力強い言葉で訴えた。

ある女性は、娘を被害から守れなかったことを悔いた父親が自殺したと明かした。夜ぐっすり眠ることができないという声や、常に不安に怯えているという訴えもあった。

ハリウッドでのセクハラ告発に端を発する「#MeToo」運動が世界を席巻するなか、彼女たちの言葉は新聞やネットニュースのトップを飾ると思われた。ところが実際にはメディアの反応は鈍く、ここにきてようやく怒りの声が上がり始めたところ。被害者の訴えに耳を傾けるのに、なぜこれほど長い時間がかかってしまったのだろうか。

ナサーの性的虐待疑惑が最初に表に出たのは16年8月のこと。米体操協会がセクハラの告発を握りつぶしているというインディアナポリス・スター紙の報道に勇気を得て、ミシガン州立大学の元体操選手レイチェル・デンホランダーがナサーの刑事告発に踏み切った。

犯行を許した組織の体質

これをきっかけに、他の被害者も徐々に声を上げ始めた。97年の時点でミシガン州立大学に被害を訴えたが、もみ消されたと語る人も複数いた。

ナサーの罪は極めて重い。裁判所は1月24日、禁錮40~175年の判決を言い渡した。

彼が標的としたのは、6歳の少女を含む若い女子選手だった。しかも彼女たちを守るべき立場にある米体操協会とミシガン州立大学、ミシガン州の体操クラブ「トゥイスターズ」は、ナサーの蛮行を容認してきた。にもかかわらずメディアはこのニュースを、ハリウッドの大物プロデューサー、ハービー・ワインスティーンをはじめとする他の多くのセクハラ疑惑のように大々的に報じてはこなかった。

#MeToo 運動はなぜ女子体操界のスキャンダルを見過ごしたのか。そしてなぜ今になって突然注目するようになったのか。

告発を最初に報じたのがニューヨーク・タイムズのような大手ではない地方紙だったことが、要因の1つかもしれない。

体操選手には関心がない