いずれのタイプにせよ、すべての記憶はニューロン同士の結びつきによって形成される。ひとつのニューロンが発火すると、それに連動してほかのニューロンもつぎつぎと発火して、パターンが形成されるのだ。そして記憶の研究からは、記憶が複数の変数に影響されることが明らかになっている。そのなかには他人の記憶に影響を与えたいときに自ら制御できるものもあれば、制御不可能なものもある。

 本書では、全部で15種類の制御可能な変数を以下のように特定した。文脈、キュー、独自性、感情、事実、馴染み深さ(条件反射や習慣と関連している)、動機、斬新さ、情報量、妥当性、繰り返し、自己生成的コンテンツ、感覚強度、社会的側面、驚き。

 あなたの話を聞く前に相手がどれだけの睡眠時間をとっているか。これまでにどれだけのコンテンツを消費して、これから新しいコンテンツをどれだけ視聴するのか。それらのコンテンツがあなたのコンテンツとどれだけ似通っているのか。コンテンツにどれだけ触れると特別の記憶が活発になるのか。相手はどれだけのストレスを受けており、気分はどんな状態で、どんな薬を飲んでいるか。これらはいずれも記憶に影響するが、こちらが制御することはできない。しかし、制御できる変数を正しい比率で利用することに集中すれば、効果は発揮される。

 15の変数をすべて暗記する必要はない。このあとの各章では、変数を少しずついろいろな形で組み合わせていくが、少しだけでも記憶におよぼす効果は大きい。

 パワーポイントなどのスライドを共有するサービス「スライドシェア(SlideShare.net)」で人気の高いスライドについて考えてみよう。人間は記憶した事柄に基づいて行動することを考えれば、どのスライドが他人の記憶に影響を与えられるか特定するのは難しくない。良いスライドは心に定着するので「行動」が促され、情報はシェアされ、リンクされ、ダウンロードされ、コメントが加えられ、ほかのサイトに埋め込まれる。

 ちなみに、2015年にスライドシェアで人気が高かったスライドを分析したところ、1位から50位までは、15の記憶変数のうち平均して9つが含まれていた。そして39・7%は「強烈な印象」というカテゴリーに分類され、制御可能な変数が少なくとも5つ含まれていた。ただし、印象が強烈なページが全体の40〜60%のスライドでも、80〜100%のスライドでも、シェア、お気に入り、ダウンロード、コメントなどはほぼ同じ結果を出している。そこからも、コミュニケーションのあらゆる構成要素をフル活用する必要はないことがわかる。変数を少し加えるだけでも行動は促される。

※第3回:なぜ人間は予測できない(一部の)サプライズを喜ぶのか


『人は記憶で動く――相手に覚えさえ、思い出させ、

 行動させるための「キュー」の出し方』

 カーメン・サイモン 著

 小坂恵理 訳

 CCCメディアハウス

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