<半世紀にわたりアメリカの外交政策を形作った国際政治学者が示した世界の在り方が失われていく。トランプ政権について最後に語ったこと>

彼の死をいま悼むことは悲しいが、時宜を得ているのかもしれない。著名な国際政治学者ジョセフ・ナイが5月6日、88歳でこの世を去った。アメリカの指導力とリベラルな国際主義を擁護してきたナイの仕事は、折しも第2次トランプ政権の下で逆風にさらされている。

ナイは「ソフトパワー」という言葉の生みの親だ。彼の学者としての指導力、教育、政策提言、外交努力は、半世紀にわたるアメリカの外交政策を形作った。

ナイと彼の信奉者は、アメリカが賢明な外交を展開すれば、できないことはほとんどないと固く信じていた。強固な同盟国を結集し、説得力ある主張を展開し、道徳的な高みに立ち続け、そしてナイが「3次元のチェス」と呼んだ複雑で多層的な国際情勢の中で敵を出し抜く──。

ナイが主張したアメリカ主導の戦後秩序の時代は、数十年にわたって凋落を続け、第2次トランプ政権の最初の数カ月で幕を閉じた。

ナイの知的な後継者たちは今こそ、ナイ自身がそうしたように、疲弊した理論を捨て去り、新たな世界秩序とその中でアメリカをどう位置付けるかについて、現実的かつ創造的な思考を巡らせなくてはならない。

キッシンジャー時代の現実主義への一撃
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