世界では今、いくつもの「メガFTA(自由貿易協定)」構想がしのぎを削っている。米国と欧州連合(EU)の間で進む環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)協議や、日中韓FTA構想、そして東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国に日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)構想、さらに旧来からある北米自由貿易協定(NAFTA)や南米南部共同市場(メルコスール)の新たな動きも加わり、複雑な様相を呈している。

 こうした状況下で、日米が中心となって先陣を切り、世界のGDPの4割を占める地域において、投資や国有企業、労働・環境など幅広い分野のルールづくりで大筋合意したのは、文字通り画期的なことだ。

 TPPは自由貿易促進という経済的なメリットだけでなく、それ以上に、地政学的に重要な意味を持つ。なぜなら、相互の投資が進み、地域内で深いサプライチェーンが整備されれば、切っても切れない最高の安全保障関係になるからだ。

 ただ、不安があるとすれば、16年に大統領選を迎える米国で議会承認が難航する可能性があることだろう。万が一、米国が批准できないような事態に陥れば、同国のアジア太平洋地域に対するコミットメントが揺らぎ、影響力が低下するのは必至だ。

 実は米国は、はしご外しの常習犯でもある。古くは第1次世界大戦後、当時のウィルソン米大統領が国際連盟の創設を提唱したものの、米議会の反対で加盟できなかった。近年では、京都議定書の未批准や国際通貨基金(IMF)改革の批准の遅れが記憶に新しい(IMF改革は12月18日に米議会がようやく承認)。

 この点について安倍政権にできることは限られるが、場合によっては、日本が先行して批准するのも米国に対するプレッシャーとしては有効だろう。日本は交渉参加まで2年かかった。言い換えれば、予備期間が2年あったので、TPP批准は米国に比べればハードルが低いはずだ。世界の新たな通商体制をけん引するチャンスを日本は逃してはならない。

 (東京 12月21日)

*竹中平蔵氏は現在、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長。1951年和歌山県和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)などを経て慶大教授に就任。2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣。 02年経済財政政策担当大臣に留任し、金融担当大臣も兼務。04年参議院議員当選。05年総務大臣・郵政民営化担当大臣。現在、政府産業競争力会議の民間議員、国家戦略特別区域諮問会議の有識者議員を務める。

[6日 ロイター]
120x28 Reuters.gif
Copyright (C) 2015トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます