この顚末を映画化した『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、ワシントン・ポストの社主キャサリン・グラハムと編集主幹ベン・ブラッドリーの葛藤と決断を描く。

普通ならば最初にスクープしたタイムズを映画の主軸にするはずだ。でも脚本のリズ・ハンナは女性が社主だったポストを舞台にした。

タイムズの苦境を目の当たりにしたグラハムとブラッドリーの決断が映画のテーマとなり、権力とメディアの闘いという主要線にジェンダーという補助線も加えられた。

選択肢は2つ。報じるか。沈黙するか。もしも報じれば、政権は訴訟を起こし、目前に控えた株式公開は失敗に終わって記者たちは逮捕され、会社はつぶれるかもしれない。でも2人は文書掲載を決断する。

タイムズとポストの決断は国民から強く支持され、文書をペンタゴン(国防総省)から持ち出して機密漏洩罪で訴追されたダニエル・エルスバーグは公訴棄却に。

さらにポストはウォーターゲート事件を独自取材でスクープして、ニクソン大統領を退陣に追い込んだ。最前線で取材したボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインは今も国民的英雄だ。

同じ年に起きたメディアと権力の闘い。でも結末は真逆だ。

当時のアメリカ国民は知る権利を優先して政権の嘘を暴くメディアを応援した。そして当時の日本国民は、政権の嘘や知る権利よりも記者と外務省職員の不倫問題に熱狂した。

もちろん「当時」だ。でも同じことがいま起きたとして、日本社会はかつてとは違う選択をするだろうか。

スピルバーグが制作を急いだ理由
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