平壌に到着して1週間が過ぎた頃、僕は人民服を買いたくなって市場に行った。普通なら旅行者は行けない。政府から派遣された通訳が、まあいいでしょうと同行してくれた。
でも売られている人民服はみな小さい(北朝鮮の男たちはみな小柄で痩せている)。売り場のおばちゃんに、「僕に合うサイズの人民服はありますか」と尋ねれば、顔を上げないままおばちゃんは、「あなたに合うサイズはこの国にないわよ」と言った。思わず「金正恩(キム・ジョンウン)がいるじゃないか」とつぶやけば、いきなり通訳されて慌てた。ちょっと待って。それは通訳すべきじゃない。通報されるかもしれない。でも一拍置いてからおばちゃんは、それは言っちゃダメよという感じで腹を抱えて笑い出した。周りの人たちも笑っている。結局は何も買えないまま市場を後にした。あの時の笑い声は今も耳に残っている。

『ビヨンド・ユートピア 脱北』(2024年1月12日公開)
監督/マドレーヌ・ギャビン
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<本誌2023年12月26日/24年1月2・9日号掲載>
2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。
米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由
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