香港に先に訪れた新冷戦の荒波

香港の問題は、香港人の力だけでは解決できない。香港は小さく、中国の主権下に入っている。香港人の声を北京が聞き入れる可能性は低い。では、運動の成果をあげるにはどうしたらいいか。それには、国際社会を巻き込んでいくしかない。多少の犠牲はやむを得ない。香港人の運動側がそのように考えたのは、自然な流れだった。

単なる平和的な抗議では事態が変わらないと考えた一部の本土派や独立派の若者たちは、非暴力にこだわらず、攻撃的に行動した。例えば、香港国際空港に押しかけて、フライトを麻痺させたことがあった。国際都市の人流ストップは香港経済を大きく損なう。空港占拠によって都市機能を麻痺させることで、民主運動を抑圧する「代価」を香港政府、中国政府に認識させる考えだった。

「香港が都市として繁栄を失うこともやむを得ない。香港政府も中国政府もいったん我々と一緒に滅ぶほうがいい」という思想は、いささか過激に思えるかもしれないが、新冷戦の対立構図に香港を巻きこみたいという彼らなりの「合理的な計算」に基づく戦い方であり、それはある部分で成功を収めていく。

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2019年の香港デモに現れた「香港人加油(香港人頑張れ)」のバナー Courtesy of Tsuyoshi Nojima

米中新冷戦の波に乗った蔡英文

台湾問題のグローバル化の予兆も香港と同じ頃に生じた。蔡英文というリーダーがこの難局で台湾をどこへ率いて向かっていくのか、最初はつかみかねた。苦境を一変させたのが香港情勢の悪化による台湾社会の危機感の増大であった。中国と厳しく向き合う姿勢を見せた彼女は2020年の総統選挙で、過去最高得票で圧勝を果たした。

2021年3月、日本と米国の外務・防衛の閣僚会合である日米2プラス2が開かれ、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調することで一致した。これを皮切りに同年4月の日米首脳会談でも台湾海峡の平和と安定が共同声明で明記された。台湾問題が日米首脳会談で明記されるのは50年ぶりのことだった。

これは台湾問題について米国や日本の関与をとことん嫌い、「内政問題」と位置付けようと努力してきた中国の試みがセットバック(後退)したことを意味しており、台湾問題の「全球化(グローバル化)」がにじんだ。同年のG7首脳会議でも同様に「台湾海峡の平和と安定」が言及された。「台湾問題の格上げ」が2021年にかけて急速に進行した。

香港問題で英国まで敵に回す

かつては非同盟を掲げて第三世界の連帯を勝ち取った中国も、内心は気づいているのではないだろうか。中国を支持した人々、中国を好きだった人々は、中国に理想を求めるモラルを感じていた。大躍進政策で失敗しても、文化大革命で転んでも、中国への尊敬は消えなかった。しかし、いまの中国経済の成長はすごいと思うが、国のあり方に理想やモラルが感じられないというのが正直なところだ。

香港の混乱の原因は、中国政府にも、香港政府にも、香港の民主派にもあるだろう。中国政府は、譲れるところは譲って妥協点を見出し、民主派と親中派が共存しながら2047年という「高度な自治」の期限まで香港を「一国二制度」のままマネージメントしていく姿勢を見せるべきであった。

あからさまな一国二制度の否定は、米国や日本など各国の対中警戒論にドライブをかけ、最友好国だった英国を敵に回すことになった。なにしろ中国は、香港の返還を決めた中英共同声明を「歴史上の文書であり現実的な意義はない」と言い切ったのである。ここまでコケにされれば、英国も対中関係の戦略的見直しに入らざるを得なかった。

中国はこの3年間に起きたことを改めて振り返ってほしい。世界がどれほど中国に失望し、中国から離反し、中国と距離を置こうとしているか。台湾・香港問題のグローバル化を招いたのは、中国自身なのである。

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