[東京 4日 ロイター] - 3期目に突入する森信親金融庁長官は、強い指導力で多くの改革を進め、金融業界に大きな影響力を及ぼしてきた。しかし、ともすれば強権的とも受け取られかねない改革路線に対して、金融業界には不満も蓄積しつつある。森長官は「金融機関との対話」路線を掲げるが、建設的な関係が築けるのかどうかが問われそうだ。
<森長官が取り組む改革>
長官は、自分の信念にもとづいて、正しいと思ったことはどんな手を使ってもやり抜く――。金融庁幹部は森長官の手法をこう評する。
森長官は就任から2年、さまざまな改革を行ってきた。そのうちの大きな柱がフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)に基づいた金融機関の業務運営の見直しだ。
一部の貯蓄性保険の販売手数料が高過ぎるとした問題では、販売を担う銀行界に手数料の開示を促したのに対し、地方銀行が反発して頓挫しかかった。すると、今度は議論を有識者会議の場に移し、金融商品の手数料開示を盛り込んだ「顧客本位の業務運営に関する原則」にまとめ上げた。
投信などの運用商品販売では、毎月分配などの売れ筋商品のあり方を批判し「長期・分散・積み立て」投資の有効性を積極的に喧伝(けんでん)。そうした考えに沿うように非課税期間が20年に及ぶ積み立てNISAを創設した。このため、運用業界からは「役所が、理想論で商品設計を語る意味があるのか」(国内証券幹部)との批判も出る。
<「対話」以前にすれ違う思い>
森長官が検査局長時代から手掛けてきた検査・監督手法の改革は、集大成の局面に入った。検査・監督の一体運営を図るために、組織再編に取り組むと同時に手法そのものも大きく変えようとしている。
そのキーワードが金融機関との「対話」だ。同庁には、これまで形式的に法令を適用することで、いたずらに行政処分を連発してきたのではないかとの反省がある。
今後は、形式的な基準をクリアしているのかどうかでなく、経営環境や経営戦略という大きなテーマで金融機関と対話し、最良の業務執行に結びつけるという方向にかじを切った。
しかし、金融庁のこうした狙いと金融機関の認識にはズレが生じているのが現実だ。金融機関の中には、小さな事柄でも自ら判断することを恐れ、金融庁に逐一お伺いを立てることに慣れてしまったところも少なくない。「自分で判断しろと言われても困る」(地銀幹部)というのが本音でもある。
金融庁幹部は「業者はすぐにガイドラインを求めるが、金融庁が作ると、ガイドラインに形式的に従えば足りるという旧来型の金融行政に戻ってしまう」として理解を求めようとする。
けれども、ビジネスモデルなどの経営戦略について、建設的な「対話」ができる金融機関がどれほどあるのか。
「金融庁と金融機関の対話なんて成立するか。あるのは、金融機関が金融庁の考えを忖度(そんたく)することだ」――。ある金融機関のアナリストはこう指摘する。
規制する側と規制を受ける側のわだかまりを解き、真に建設的な対話が実現するかどうか、金融庁長官としての在任期間が歴代最長に並ぶ森長官に課せられた重いテーマとなりそうだ。
(和田崇彦 編集:布施太郎、田巻一彦)