インドネシア・スラウェシ地震・津波の死者844人に 早すぎた津波警報解除が犠牲者増やした?

2018年10月1日(月)19時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

<インドネシア・スラウェシで発生した地震・津波の犠牲者は時間が経つにつれて増えている一方で、閉じ込められた人びとの救出は時間との闘いになっている──>

インドネシア・スラウェシ島の中スラウェシ州で9月28日午後6時2分ごろに発生したマグニチュード7.4の大規模地震と津波による被害は州都パルとドンガラ県ドンガラ市を中心に広がっており、停電、道路などの崩壊による孤立状態が続いているため救援活動は困難を極めている。

ジョコ・ウィドド大統領は滞在先のジャワ島中部ソロから9月30日昼前、空軍機などで被災地パルに入り、被災地を視察し、被災者に救援物資を直接手渡した。

国家災害対策庁(BNPB)によるとこれまでの捜索活動の結果、死者は844人、重傷者は540人となった。ただし死者の821人はパル市内、11人がドンガラ市内での津波の被害者としているが、ドンガラ市周辺など海沿いの町村被害の状況は通信が途絶しているため完全な報告が届いていないという。このため今後被害はさらに拡大する可能性が高い。

インドネシア地元紙の報道によると国連総会出席のため米ニューヨーク訪問中のユスフ・カラ副大統領は「犠牲者は1000人を超える可能性がある」と述べたという。

パル市内では南スラウェシ州のマカッサルや北スラウェシ州のマナドなどから駆けつけた救援部隊に加え、滑走路が損傷したパル空港に着陸したヘリコプターや空軍機で到着した国軍部隊などが本格的な救援、捜索活動を開始した。市内各所や海岸沿いに残されていた犠牲者の遺体を身元確認のために最寄りの病院に搬送する作業や崩壊した建物での捜索が続いている。

パル市内では数十人が閉じ込められているとされる「ホテル・ルアルア」で国家捜索救助庁(BASARNAS)」の隊員による必死の捜索が続いている。8階建ての同ホテルは地震でほぼ倒壊し、数十人が閉じ込められているとされる。うち何人かは携帯電話の電波が確認できることから生存の可能性があるとして作業を急いでいるが、これまでに収容されたのは遺体ばかりという。


「ホテル・ルアルア」で国家捜索救助庁の隊員による必死の捜索が続いている。 KOMPASTV / YouTube

早すぎた津波警報解除に批判続出

今回の地震発生とほぼ同時の9月28日午後6時2分過ぎに日本の気象庁に相当する気象地球物理庁(BMKG)は中スラウェシ州周辺に「津波警報」を発令した。

しかし34分後にこの津波警報は突然解除されていた。警報解除と第一波の津波がドンガラ市やパル市に到達した時間の関係は正確には不明だが、BMKGの地震津波部長ラハマット・トリヨノ氏は「ネット上に出回っている津波の映像を見る限り、警報解除の前に津波は到達しているようだ」としている。

9月29日の記者会見で解除の根拠やタイミングを問われたトリヨノ氏は「警報解除は通常の規則に従ってとられた手段である」として特に問題ないとの姿勢を示した。その根拠とはパル市に最も近い潮位観測所からのデータに基づくものだったという。

ところがその潮位観測所はパル市から200km離れた場所に設置され「データは通常の潮位より6cm高かっただけだったので解除の手続きを取った」としている。パル市は過去1927年、1968年に津波があったが当時のデータが共有されておらず、それに加えて200km離れた潮位観測所のデータで判断せざるを得なかったというお粗末な状況が明らかになった。

津波の第一波の到達をBMKGは知らずに警報を解除した可能性が高く、津波到達後の解除だとしても問題は残るとみられている。

さらに地震でパル市をはじめとする被害を受けた地域では直後から一斉に停電してしまったことから、テレビやラジオ、警報を知らせるサイレンなどが一切機能せず、住民に警報が十分伝わらなかったことも被害を大きくした可能性があると指摘されている。

BMKGでは「今回のことはよく検証して将来の課題として検討したい」としているが、警報解除、警報伝達に関して真摯な反省を見せている訳ではなく、被災者からは怒りの声も上がっている。

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