美しすぎるロシア人スパイが政界進出?

2010年7月16日(金)16時30分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局)

 FBI(米連邦捜査局)に逮捕され、7月9日にアメリカとロシアが行ったスパイ交換によってアメリカを離れたアンナ・チャップマン。彼女のような若くて美人のロシア人スパイには、この先いったいどんなキャリアが残されているのだろう。

 チャップマンがフェースブックに掲載していた写真が世界中のタブロイド紙を飾ったことを考えれば、スパイ行為はたぶん無理。しかし、ロシアで全国区の政治家になる可能性はありそうだ(チャップマンは、国内では旧姓のアンナ・クシュチェンコという名前で知られている)。出身地であるボルゴグラード(旧スターリングラード)では、彼女はすでに英雄扱いされており、ロシア政府後援の青年政治組織は先週、チャップマンを名誉市民にするよう市長に求めた。

 チャップマンをはじめとする10人のロシア人スパイ容疑者がアメリカで拘留されている間には、ボルゴグラードの広報新聞が作詞作曲コンテストを開催。主催者のセルゲイ・オニシェンコは、コンテストは「同胞を精神的に支援する」ためのものだったと話す。「私たちはチャップマンを英雄だと思っている」。優勝した曲は親しみやすいバラードで、「あなたは拘置所でも完落ちしていない。私たちの秘密は何もばらしていない」という歌詞が入っている。

 チャップマンが政界入りする場合は、ロシア自由民主党(LDPR)からの出馬になるだろう。LDPRのボルゴグラード支部長アレクサンドル・ポタポフは、チャップマンが出馬に興味を示せば、「彼女が次の議会選挙(2012年)で議席を得られるよう何でも協力する」と言う。

 極右政治家ウラジーミル・ジリノフスキー党首が率いるLDPRは、悪名高い人物を政界に送り込んだ実績がある。08年には、イギリスに亡命したアレクサンドル・リトビネンコの毒殺容疑でイギリスから指名手配されたアンドレイ・ルゴボイを、LDPRから立候補させて国会議員に当選させている。刑事免責、公用車の利用、政府補助の付いたモスクワの住宅といった「特権」を国会議員は享受できる。「彼の場合も上手くいったから、アンナが有名政治家になりたいと思うならうまくいくだろう」と、ポタポフは言う。

本人はイギリスに帰りたいと言うが

 00年にウラジーミル・プーチンが大統領に当選したのは政府からの「お墨付き」が大きかったことを考えれば、ロシアの国会議員になる上で政治的な経験不足が障害になることはない。与党の統一ロシアは近年、元新体操選手のアリーナ・カバエワ(プーチンとの不倫疑惑でロシアメディアを賑わした)や元体操選手のスベトラーナ・ホルキナ(プレイボーイ誌でヌードを披露)、ボリショイ・バレエ団のプリマ、スベトラーナ・ザハロワや有名ボクサーでヌードモデルのナタリア・カルポビッチといった有名人を候補者リストに並べている。

 先週のスパイ交換以降、チャップマン自身は控え目な態度を保っている。彼女は弁護士を通して、ロンドンに戻りたいという希望を公表したが、イギリス側は市民権を剥奪してそれを阻止。イギリス入国も禁止した。出入国の審査が免除される欧州の「シェンゲン協定」のビザも禁止される可能性がある。

 ロシアのSVR(対外情報庁)によれば、スパイ団の他のメンバーは事情聴取を受けた後、証人保護プログラムに沿ってロシア当局から新たな身分を与えられるという。だが、有名になってしまったチャップマンの場合、身元を変えてもあまり効果はないだろう。

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