プロスポーツ界も注目! 脳に電気刺激を与え能力を高めるヘッドホン型デバイス

2019年3月12日(火)17時05分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラムニスト)

その1つ、ロンドンの研究チームの論文は、「適切に使用すれば、(tESは)多くの競技のパフォーマンス向上に役立つと考えられる」と結論付けている。

ニューロペースの認可後、2014年にチャオはウィンガイアー、サーバと共にヘイローを立ち上げた。手始めにアスリート向けの製品の開発を進めたのは、スポーツならタイムやパワーなど数値データで効果を検証できるからだ。先行研究で運動能力の改善効果が確認されていたことも大きい。「データに基づいてビジネスモデルを打ち立てた。その逆じゃない」と、ハントは言う。

ハントは一時期マッキンゼーの上級顧問を務め、チャオとサーバとはその頃からの付き合いだ。彼らにアンドリーセンを紹介したのもハント。アンドリーセンはヘイローの将来性を即座に見抜いたと、ハントは言う。「シリコンバレーでは誰もがもっとIQを上げたいと思っているからね」

ヘイローに出資するラックス・キャピタルのピーター・エバートはこう語る。「消費者がこの発想に慣れるまでには時間がかかるだろう。自分の認知過程の向上に興味がある全ての人の役に立つはずだ。誰もが少しでもプラスに導いてくれるものを求めている」

脳に電気パルスを送ることで仕事のパフォーマンスまで向上できる? DRAGONIMAGES/ISTOCKPHOTO

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ヘイローは試作品の段階から協力者を募ってデータを収集し、改良を重ねてきた。ニューヨークで開催されたスポーツ関連の会議でチャオの説明を聞いて、スキーの米代表チームが試したいと名乗り出た。2018年の平昌冬季五輪の代表選手も使用している。

陸上短距離走の金メダリスト、マイケル・ジョンソンがダラスに設立したトレーニング施設「マイケル・ジョンソン・パフォーマンス」もテストに参加し、豊富なデータを提供している。NFLを目指す大学生選手23人もトレーニングに採り入れ、(ヘイローがどのくらい貢献したかはさておき)有力チームに入団した。

プロスポーツの世界でもヘイローを導入する動きは広がっている。メジャーリーグのサンフランシスコ・ジャイアンツは2017年に正式にパートナー契約を結んでいる。「野球はぴったりだ。とても定量的なスポーツだから」と、チャオは言う。

一般的には、90分間のトレーニングの最初に20~30分間、装着することが推奨されている。ヘイローを装着して練習すると、より早く、より完璧に技術を習得できるという。

電気刺激を受けた脳は「超可塑」の状態になる。すなわち、一時的にニューロンの伝達効率が高くなって、脳の学習能力や適応能力が高まるのだ。

1日に30分以上装着しても、効果が上積みされることはなさそうだ。長時間装着した場合に人体が受けるダメージは、まだ確認されていない。

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