尖閣問題で大騒ぎする中国人の「本音」は

2012年10月15日(月)09時00分
東京に住む外国人によるリレーコラム

今週のコラムニスト:李小牧

〔10月10日号掲載〕

 歌舞伎町案内人の私が3度泣いた──。妻に愛人の存在がバレた嘘泣きではない。わが母国の中国と、第二の祖国である日本のひどい衝突ぶりに涙したのだ。

 日本政府の尖閣諸島「購入」に怒った中国のデモが暴徒化して日本企業の工場に放火し、日系デパートから時計や貴金属を盗んだ。デモと破壊活動が頂点に達した満州事変勃発日の9月18日前後、私は心配と興奮のあまり、3日間ほとんど寝ずにニュースの進展を見守った。

「趾高気揚(チーカオチーヤン、どや顔)」でひっくり返した日本車の上に乗るようなバカな中国人の姿ばかりが目立ったが、マイクロブログ新浪微博(シンランウェイボー)では意外に冷静な意見が目立っていた。それに今回のデモ参加者数は数万人。13億人の全人口から比べれば、0・01%にも満たない。

 まったく言い訳できないひどい暴力だ。とはいえ、この問題でなぜこんなに中国人が怒るのか、日本人はいまひとつ理解できていない。その無理解が、実は問題をこじらせている原因の1つでもある。

 まず、今回のデモは明らかに中国政府が誘導した「官製」デモだ。商務省次官が日本製品ボイコットを容認したり、外務省報道官が「破壊活動の責任は完全に日本側にある」と発言するのは、中国人民に非合法な行動を遠慮なくやれ、とたきつけているに等しい。

 なぜ中国政府は常識外れな行動に出たのか。最大の原因は野田佳彦首相だ。

 APECで胡錦濤(フー・チンタオ)主席と「立ち話」し、「大局的観点から対応する」と答えたわずか2日後、野田首相は尖閣の国有化に踏み切った。これでは、任期最後で有終の美を飾ろうとしていた胡のメンツは丸つぶれだ。それどころか、領土をむざむざ失った売国奴として共産党の歴史に名を残しかねない。怒りにわれを忘れた胡が政府機関に「日本に目にものを見せろ!」と指示したとしてもおかしくない。日本は中国と国交回復して40年になるというのに、いまだに中国人にとってのメンツの大事さを分かっていない。

■中国人と日本人の「勘違い」

 信じられないかもしれないが、かなり多くの中国人は日本が実効支配している尖閣諸島を本気で奪還できると考えている。大手メディアに勤める私の知り合いのジャーナリストの中にもそんな人がいる。常識的に考えて、もし人民解放軍が尖閣を武力で取り返せば、アメリカ軍と戦争になる可能性が高い。ところが、中国政府や中国メディアは国民に対して、アメリカが尖閣を日米安保条約の適用範囲内、と再三発言していることを伝えていない。とんだ「国民教育」だ。

 中国人にとって尖閣は領土問題であると同時に歴史問題でもある。竹島あるいは独島と呼ばれる小島をめぐって、韓国人が日本に対して怒りをぶちまけるのと同じだ。日本の「不法占拠」に対して、中国人は「第二次大戦で懲らしめられた国が、反省も謝罪もないまま再び領土的野心を燃やしている」と憤っている。

 そして何より、日本人にとって信じ難いことだが、中国人の中には自国に対する破壊願望が存在する。実際、微博には「もし戦争になって勝ったら釣魚島を取り返すことができる。負けたっていい。なぜならそれをきっかけに『新中国』が誕生するからだ!」というかなり際どい書き込みが現れた(すぐ削除されたが)。貧しい農民にとっても知識人にとっても、中国は非民主的で腐敗に満ちた不満だらけの国だ。「こんな国、壊してしまいたい!」という衝動を、実はあらゆる中国人が共有している。その衝動が、デモで解放されたのだ。

 わが故郷の英雄、毛沢東の肖像画がデモに現れたのは、彼が抗日戦争を戦った人物だから。ただ彼が、破壊の限りを尽くした文革の指導者であることも、参加者の破壊願望に訴えたはずだ。

 中国政府がデモ隊のひそかな「目標」に気付いていたか定かではないが。

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