少子化対策のヒントは出産天国フランスにあり

2012年8月27日(月)09時00分
東京に住む外国人によるリレーコラム

今週のコラムニスト:レジス・アルノー

〔8月15・22日号掲載〕

 日本人女性がフランスに魅せられる理由はいくつもある。美術館、おいしいワイン......。私はパートナーのおかげで、もう1つの理由に気付いた。昨年彼女が妊娠し、私たちは現実的な理由からフランスではなく東京の病院で出産することにした。女性が子供を産むに当たって、日本はとても安全な国。ところが看護師たちは素晴らしいのに、日本で出産するのはフランスよりはるかに大変だった。

 私の友人の日本人女性は昨年5月にマルセイユの病院で出産した。分娩室に入ったらボブ・マーリーのレゲエ音楽ががんがん流れていたそうだ! これが日本の病院だったら不安になりそうだが、スタッフがプロ意識に徹していたので安心したという。「2時間で終わった。全然痛くなかった」と友人は当時を振り返る。産後の回復も早く3日間の入院で済んだ。

 フランスでは普通、出産するのはパリのホテルに泊まるのと同じくらい快適だ。そのせいもあってフランスの出生率は飛び抜けて高い。出産費用は無料で経済的メリットもある。妊娠6カ月目以降はさまざまな検査も全額補償される。

 出産は無痛分娩で、というケースが圧倒的に多い。無痛分娩で出産の感動を味わえる時代とあって、苦しまなければ「良い母親」になれないという迷信をフランスの女性たちはお払い箱にした。これには政治家もひと役買った。女性に敬意を払い、無痛分娩の費用を全額社会保障費でカバーしている。その結果、今では80%を超える妊婦が無痛分娩を選ぶ。無痛分娩は麻酔医が担当するので安心だ。

 出産後も親にはさまざまな経済的メリットが用意されていて、子育ての負担が軽くなる。フランスでは出産は母親のキャリアに対する死刑宣告ではない。産休を取っても出世に響く心配はない。フランスの女性は16週間の産休を取得でき、その間の給与は全額補償される。人生の最良の時期を子供のために犠牲にすることもない。はっきり言って、子供が生まれたってセックスライフは終わらない。多くの日本人のように子供と一緒に寝るなんて、フランスの親に言わせればとんでもない話だ。

■大盤振る舞いにはツケもあるが

 一方、日本では産休は14週間で、その間は一般的には給与の3分の2しか補償されない。つまり出産前の月給が20万円の女性なら、産休期間中に44万円が支給される。フランスなら同じ月給で80万円もらえる。3人目の子供からは26週間の産休が取得できるので130万円だ!

 日本ではさまざまな検査はほとんどが無料ではない。無痛分娩もそうだ。選べないことはないはずだが、実際に無痛分娩を選ぶ日本女性はわずか1・3%。東京で無痛分娩ができる病院は少ないので、私のパートナーは長時間かけて通院し、病院に着いてからも長いこと待たされた。フランスの妊婦には当たり前のことが彼女にとっては当たり前でなくなっている状況は、見ていてつらかった。

 もちろん、フランスのシステムにも欠点はある。大盤振る舞いのツケで、企業や従業員の経済的負担が重くなっている。特に法人税に加えて課される法人利益社会税は、企業側のコストが増大する原因になっている。そのため失業率は10%と高く、若者はなかなか職に就けない(若者の失業率は25%に達している)。だから私はわが子の将来を考えて、日本で育てるつもりだ。

 ただし日本の場合は、職より働く人のほうを増やさなければならない。日本は過去40年間、少子高齢化に悩まされてきた。この点についてはフランスを見習うべきだ。フランスのようになれる見込みは大いにある。厚生労働省によれば、日本人女性が「理想」とする子供の数は2・6人。いいかげんに日本の政治家も有権者の半数を占める女性たちへの気配りを見せてはどうだろう。

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