アステイオン

音楽

この街には「ハングリー精神」がある...バイオリニスト・廣津留すみれがNYで見つけた「ジャンルを超える」可能性とは?

2025年10月01日(水)11時00分
廣津留すみれ(バイオリニスト、国際教養大学特任准教授、成蹊大学客員准教授)
夕焼けのニューヨーク

Michael Discenza-Unsplash


<米ジュリアード音楽院卒の廣津留が語る音楽学生生活──『アステイオン』102号より「ニューヨークの音風景」を転載>


マンハッタンの66丁目とブロードウェイの角に位置するジュリアード音楽院、私の母校の3階で、この原稿を書いている。

このフロアにはダンス科と演劇科のスタジオやジャズのスタジオがあり、廊下を歩けばダンサーたちが準備運動をしていたり、踊りの掛け声やトランペットのソロなどが聴こえてきたりと賑やかだ。

音楽科(ジャズを除く)の人間が3階に来ることはあまりないのだが、窓際の大きな階段広場だけは特別である。この建物はブロードウェイ側の壁一面が窓になっており、ここから外に目をやればせわしなく行き交うイエローキャブや早歩きのニューヨーカーが見下ろせる。

開放感あふれる環境でランチを食べたり、ストレッチをしたり、パソコンで作業をしたりと各々が好きなように過ごしている。

今週はコロンビア大学ビジネススクールでの講演のためニューヨークに来ているのだが、この街に来ると不思議と「懐かしい」よりも「戻ってきた」というホームの感覚が強く残る。

今回も友人や教授に「ニューヨークに戻って来たい?」と何度も聞かれた。うーん、この街の音楽シーンが恋しいのは間違いないね、と答える。

そこらじゅうに素敵なコラボレーションが散らばっている音楽シーンや、今話題の舞台やコンサートへの評価が飛び交うレストランにバー、そして「何かを成し遂げてやるぞ」というニューヨーカーならではの野心。これはどんな都市にも替えられない、ニューヨークならではの特徴である。

音楽家と話していても、常にステップアップの機会を求めている。自分がどうしたらより良いミュージシャンになれるかと、プロアクティブに刺激を探している音楽仲間たちは、人間として魅力的だ。

今回会った中でも、指揮科に入り直すためにスコアを勉強中だというピアニストや、革新的な作曲プログラムに応募して人脈を広げたいと話す作曲家もいれば、お世話になった教授までもが学際的な芸術団体を作ろうと全力でファンドレイジングをしているという。

この街独特のハングリー精神は絶対に忘れてはいけないと思うし、心地良いか焦るかギリギリのラインの刺激を求めて私はしばしばこの街に戻ってくる。

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