アステイオン

座談会

「日本には現場力がある」...多極化する世界の中で、日本が進むべき道とは?

2025年07月02日(水)11時05分
池内 恵+廣瀬陽子+森 聡+北岡伸一(構成:石本凌也)

 経済面では、アメリカと諸外国との間で関税合戦が起こる可能性があります。広範な高関税政策は、困惑と混乱を世界規模で巻き起こすとみられます。また、最近はあまり注目されていませんが、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)の拡大が日本にとっては重要な課題です。

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アメリカ以外にも、日本が高水準の自由貿易関係を築くべき国は多数存在しています。そのためにも加入希望国に単に国内改革を要求するだけでなく、それらの改革を積極的に支援することも重要なのではないでしょうか。日本は部品や技術面で強みを持ち、新興国の市場開拓も進めるべきです。

2つ目に、紛争や大規模自然災害は広く諸外国の社会や経済に影響を与えます。ですから、いわゆるレジリエンス(強靭性)を向上させるためのエネルギー資源や食糧、技術、医療・公衆衛生などの分野で、同志国やグローバルサウス諸国と協力する枠組みを日本がリードすることも重要な課題です。これが新しいタイプの国際公共財になるでしょう。

最後に安全保障です。中国や北朝鮮が軍事力を強化し、グレーゾーンの行動が懸念されています。そんな中で、トランプ政権がアメリカの安全保障政策を見直す動きがあり、不確実性を増しています。

他方で、アメリカは日本の安全保障に欠かせない重要な国であることに変わりはありません。欧州・インド太平洋諸国との協力は重要性を増しますが、安全保障でアメリカの代替にはなり得ません。

ですので、トランプ大統領への不信感に駆られて、日本が中国の追求する「核心的利益」を受け入れたり、アメリカから距離を置いたりすべきではありません。トランプ政権は、アメリカにとって「良き同盟国」の定義を変えているので、それを踏まえてまずは現実的かつ責任ある戦略を見つける必要があります。

第二次トランプ政権に対しては、安全保障面で少なくとも2通りのアプローチが求められます。

第一に、日本は首脳から閣僚、議会、ビジネス、草の根に至る様々なレベルでアメリカと社会・経済面での関与を深め、インド太平洋地域の平和と繁栄がアメリカの利益に直結していることを示し、日米関係をアメリカの一国主義が納得するディールに沿ってフレーミングし再構成することです。

他国とのディールで日本を取引のカードにするのは惜しいとトランプや一国主義者が考えるようにすることが肝心です。

そして第二に日本の防衛力を抜本的に強化し、アメリカを地域に巻き込む戦略を立てることです。2022年の安保三文書が、新たな時代の対応に必要な自律性という基礎をすでに提供しているという北岡先生のご指摘は、まったくそのとおりだと思います。

日本がエスカレーションする能力を強化し、日本が有事対応すれば、そこにアメリカが必ず介入するという体制や戦略、能力を整備していく必要があります。

かつては、「日本がアメリカの武力介入に巻き込まれる」などと言われていましたが、今度は日本がアメリカを巻き込めるということを中国や北朝鮮に示す必要が生じています。

「日本を含むインド太平洋の平和と繁栄はアメリカの死活的利益である」というこれまで自明とされてきた理解を、アメリカに再発見させるために日本が先頭に立って汗をかきつつ、日米防衛協力の精緻化・高度化を通じて地域紛争を抑止していくという、この2通りの取り組みを並行して展開することが求められているのではないでしょうか。

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