2024年1月、ウクライナの首都キーウを訪問し、ウクライナ支援を表明した上川陽子外務大臣(当時)Ruslan Kanuka/Ukrinform/Sipa USA via Reuters Connect
2021年から2024年9月まで行われた「自由主義国際秩序の再建と日本の役割」研究会を振り返り、メンバーの廣瀬陽子・慶應義塾大学総合政策学部教授と森聡・慶應義塾大学法学部教授、ゲストの池内恵・東京大学先端科学技術研究センター教授に本研究会主査の北岡伸一・国際協力機構顧問が聞く(座談会開催は本年1月19日)。
※中編:アメリカが「世界の警察官」をやめる転換点は、いつだったのか? から続く
北岡 ところで中国は今、中東問題でどのような姿勢をとっているのですか。パレスチナ支持は口だけですか。
池内 はい。中国は、中東問題に関しては「1967年の国境を基礎にした、東エルサレムを首都とした、完全な主権を有する独立国家の建国を」と原則論を主張し、既存の国際秩序の護持者のように振る舞っています。
北岡 気候変動問題でもそうですね。
池内 中国は湾岸やエジプトなど中東の主要国への経済的な関与を積極的に進めていますが、それは端的に儲かるからです。
中東の資源も必要だし、中東の市場も欲しい。アメリカの同盟国であるサウジアラビアやUAEに対しても、敵対するイランに対しても、両方に接近して、中国はどちらからも好印象を持たれているのが実情です。
北岡 では、インドはどうでしょうか。パレスチナ問題およびウクライナ問題に対するインドの立ち位置はどうなのですか。
池内 モディ政権が反イスラムなので、そこでイスラエルに加勢しているというところは今はありますが、元来インドはイスラエルと軍事的、経済的な関係が非常に深いという歴史的経緯があります。
多くのグローバルサウスの国々が親パレスチナの姿勢をとっているにもかかわらず、インドは「グローバルサウスの側に立つ」という立場を、この問題においては全然主張していません。
廣瀬 インドは、ロシアとの間で軍事的に非常に強力な関係に長くありました。ロシアは多くの兵器をインドに輸出しましたし、共同生産すらしていました。しかし、ウクライナ戦争が始まってから、ロシアは自国の兵器の確保すらままならない状態で、インドに良い武器を輸出できなくなっており、露印間の軍事面での関係は落ちています。
しかし逆に、経済関係は顕著に深まっています。例えば、制裁でヨーロッパに売れなくなったエネルギーを特に買っているのはインド・中国で、インドの場合は戦争が始まる前の22倍もの量を買っています。
北岡 これらの点については、アメリカから見たらどうなのでしょうか。
森 オバマ政権の頃からインドとは武器の売却をめぐる関与が深まっており、国防長官が何度もインドに行っています。インドからすると、印中ロという三角形があるため、ロシアが非常に重要になっています。
そこにアメリカもどんどん関わってきて、中国を対抗相手にして、アメリカとインドが国防技術、あるいは兵器売却の関係を通じて連携を強化し、アメリカはQUAD(日米豪印戦略対話)のような枠組みを一生懸命保つようなダイナミズムが起きているのだと思います。
池内 しかし、対中の文脈でインドに軍事技術や情報技術を供与したら、すぐにそれがロシアに筒抜けになるとも見られていますよね。果たしてインドとアメリカが本当に関係を深められるのかは、難しい問題ですね。
北岡 その通りですね。我々に何かあったときにインドが助けに来てくれるなどというようなことは全然期待できません。
廣瀬・森 それはないですね。